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08
 



「え?」



 俺の言葉に、翡翠さんは唖然とした顔のままそう返して。
 翡翠さんに向けている目の端で、千鳥さんも驚いているように見えた。



「俺が捨て犬君と一緒にいる。……ダメ?」



 一緒にいる、ってことが、千鳥さんに迷惑をかける事になるのは分かってた。
 だけど俺は、一緒に居ようと思った。

 隣の千鳥さんに顔を向ければ、千鳥さんも俺に顔を向けていて、だけどそのまま固まっていた。



「……ダメ、だよね。ごめんなさい」
「………」



 返事はない。気まずくて俯く。

 今いる部屋で、人の声はなく。
 ただ沈黙だけが続いて数分くらいたった頃に、突然ドアが開いた音がして、次に背中に軽い衝撃が襲った。



「───え?」



 さっき俺が言った言葉の時とは雰囲気が違うけれど、翡翠さんは再度驚いたように声を上げた。

 ゆっくりと顔を上げれば、千鳥さんの視線が俺の右肩に移っていて、有り得ない、という心の声が聞こえてきそうな表情になっていた。



「………」



 何事かと、首を右に向けた時。
 千鳥さんの表情に共感出来るくらい、俺自身が驚いた。


 背中に、暖かい温もりと微かな振動。
 視界いっぱいに映る、銀。



「…え、」



 今までずっと何の反応もなかった捨て犬君が、今現在、俺の背中にへばり付いていた。



「……参ったねえ」



 それから数分、もしくは数秒か、沈黙が続き、それを破ったのは翡翠さんだった。



「……ハァ」



 隣の千鳥さんが、まるで翡翠さんに返事をするように溜息を吐き出す。
 ただひとり、俺だけ状況があまり理解出来てないみたいで、頭の中が真っ白になる。



「……え、ちょ、…うん?」



 背中にあった手が、前に回されて。細いやつれた腕が視界に入る。
 そして予想外に強い力で、ぎゅっ、と締め付けられた。



「……どうしたの」



 返事は聞こえない。
 ただ、締め付ける力が必死そうに感じた。

 そして、多分きっと俺にしか聞こえないくらいの掠れた音が、耳に届いた。



「───ひとりに、しないで」



 


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あきゅろす。
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