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───ひとつの溜まり場があった。
ネオンが煌めく夜の街から外れた、騒音が住宅に届かない場所に建つそこは看板がなく、中の明かりだけが零れ存在を確認出来る目立たない建物。
隣の空地には様々な種類のバイクが数台停めてあり、バイクの持ち主達は一軒の店に集う。
関東地区に存在する数多のチームのトップに立つ、守護神という大それた意味を持つ『tutelary』というチームの溜まり場である。
組織の規則は特に厳しくないが、売られたケンカは買っても無駄な喧嘩はしない。
一般人には手をださない。
酒とタバコは程々に。
薬なんて以っての外。
そして『tutelary』の上層部にあたる人間が美形であった。
売られた喧嘩を買って勝っていくうちに有名になった『tutelary』は、暇さえあれば一軒の店に集う比較的仲の良いチームである。
ひとりが淋しかったら来れば良い。
退屈なら店に来れば良い。
ただしひとつだけ、暗黙の了解と呼ぶ絶対的な決まりが『tutelary』にはあった。
───【黒猫】には手をださない。
【黒猫】はひとりの人間である。
自由気ままであり、馴れ合いは好まず、言葉もあまり発しない。
猫のような行動性格と髪も服も全て黒であることから、【黒猫】という通り名がついた神出鬼没な存在である。
いつも真っ黒なニットのパーカを着ていて、深くフードを被り顔は見えず。
しかしちらと見る肌は滑らかそうで白く、聞いた話では目は紫色をしている。
顔を見たことがある人間は極稀である。だが初代総長は【黒猫】と友人であり、【黒猫】を連れて来たのは初代総長であると、チーム内の人間は語る。
猫は自由気ままである。
その【黒猫】を自分だけのモノにしようものなら、傘下含むチーム全てを敵に回すことになる。
唯一常に【黒猫】の傍に居られるのは、いつの間にか現れた今や【銀狼】として名を知られている一人だけである。
店内は左手に六人掛けのカウンター、奥にはテーブルにソファーが備え付けられ若者達は煙草を吸い語り合う。
カウンターの右側には四人分のイスと四角いテーブルがあり、四つ全てが埋まっていた。
そこは四人の特等席でもあり、チームの幹部に当たる【四神】が座る。
店内にいる人数は二十人程で、ほとんどが奥にいる。
カウンターにはひとり、金髪をポニーテールにした美男が座っていた。一匹狼と名高い【狂犬】の通り名を持つ、泉神楽である。
「……はあ、」
揺れる氷と酒。
しかし手を添えたまま動かない。
神楽は浅く溜息を吐くと、ゆっくりと瞼を閉じる。
「なんだ、珍しくしおらしいな」
「なんスかそれ」
カウンターの向かい、スラリと長身のこれまた美形がニヤリと笑みを浮かべる。
『tutelary』の初代総長、天王焔紀(テンノウ エンキ)24歳。
総長を下りて、今はこの店のオーナーをしている。
ちなみに店の持ち主はこの天王焔紀であり、『tutelary』専用のたまり場として建てたのもこの人物である。
二代目は焔紀の親友であるが、今夜は不在らしい。
「【狂犬】がしおらしいとか不気味」
「そう言ってやるな、【狂犬】も人間だ」
「……駄犬」
「ぶはっ」
「オイコラ、言いたい放題だな」
後ろから聞こえた声に振り返り、【狂犬】は眉間にシワを寄せた。
視線の先には、四人掛けのテーブルとイスに当たり前のように決まった位置に座る幹部の【四神】である。
白虎、青龍、玄武、朱雀。
【四神】という名がついたのは、個々の通り名からだ。
獰猛と悪戯の【白虎】が神威(カムイ)。
尊く、偉い【青龍】が八雲(ヤクモ)。
暗い、守りの【玄武】が社(ヤシロ)。
灯り、賢い【朱雀】が棗(ナツメ)。
四人とも目を引く美形揃いである事も、有名である要素に入っていたりする。
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