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05
 



「───刷り込みもひとつの手だよね」



 外観から見ても高級だとわかるマンションのエントランス。
 黒い長髪に黒縁の眼鏡をかけた闇医者、翡翠は後ろにいるであろう友人を振り返る事なく言った。
 返事は端から期待していないようで、エントランスから外に出れば外部用駐車場に停めた赤い外国車に近づく。



「……厄介だ」
「睦月が興味を持ったんでしょ?様子見くらいしてあげなよ」



 翡翠が車の前まで来て振り返れば、朝比奈千鳥は不機嫌そうに言う。
 やっと成人を迎えたばかりの友人を見ながら翡翠が溜息混じりに返せば、ピクリと形の良い眉が動く。


 翡翠は、千鳥の家にいる時任睦月が現在家出中で千鳥が家に来いと誘った、という話は聞いていた。
 二人が出会った時、睦月は小学校低学年だったと、それから会う度に話を聞いていたから千鳥が睦月に抱く感情も知っていたし、自分も睦月に興味を持っている事を自覚していた。

 普通なのに、どこか異常な質を含んでいる。


 睦月に会ったのは、本人が小学生の時で一度短時間会っただけだから覚えてないだろうと先程、はじめまして、と言えば同じ言葉を返された。
 少し寂しく思ったものの、まあ仕方ないかと妥協していた。



「明日また来るから。もし本当に厄介者になり得るようなヤツならあの子も気付くはずだし、ね」
「……ハァ」



 納得させるように言えば、千鳥は返事のように溜息を吐き出した。
 翡翠はそれを納得と受け取ると、車のドアを開けて乗り込み、千鳥を見上げた。



「どっちかと言えば、楽に追い出せる理由がある選択肢が君にはいいんだろうけど」



 それでも僕は一応オールマイティで中立的な医者だから、君に荷担してどうこうしたりはしないけれどね。

 そう言い残し、翡翠はドアを閉め車を発進させた。






「…闇医者が表より技術も才能も上ってどうなんだよ」



 走り去る車を見ながら呟いて、千鳥はマンションのエントランスへと入って行った。



 


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あきゅろす。
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