03
「これも何かの縁かもね」
向かい合ってるのに独り言を呟いて、持ったままの携帯を開いた。
目的の番号を見つけるとボタンを押して携帯を耳に押し当てれば、呼び出し音が聞こえて来る。
その間も腕を掴んだまま、しかしそいつは動かない。
『───もしもし、』
「あ、千鳥さん」
『どうした』
「なんか拾った」
『………は?』
なんて言ったらいいんだろ。
人間拾った?猫?犬?……。
「捨て犬!」
『元いた場所に戻してさっさと帰ってこい』
即答されてしまった。
むっとして、思わず腕を掴んでいた右手に力を入れたら、ビクッとそれが動いて。
「あ、ごめん。力入れすぎた、痛かった?」
咄嗟にそう言っても、向かいにいる人間はまた動かなくなってしまった。
『……犬じゃねぇのかよ』
「いやまあ、」
『なんだよ』
「同じ年くらいなんだよねぇ」
『…お前なぁ、』
「てへ」
どうやら千鳥さんは分かったらしく、深くため息を吐いたのが聞こえた。
『あー…とりあえず帰ってこい』
「連れてっていい?」
『分かったから連れて来い』
「よしゃ分かった、ダッシュする」
千鳥さんの呆れ顔を想像しながらも電話を切り、捨て犬の顔を覗き込むように近付いて。
「おいで。…悪いことはないと思うから」
顔をはっきり見る事は出来なかったけど、そう言って軽く腕を引っ張れば、捨て犬はすんなり足を動かしてくれた。
ただ顔は俯いたままで。
「ただいまー」
高級マンションの専用エレベーターで最上階まで行って、玄関を開けて一言。
千鳥さんは多分リビング。と思った時、玄関に見知らぬ靴があるのに気付いた。
首を傾げつつも靴を脱ぎ、振り返る。
捨て犬君は路地にいた時裸足で、ここに来るまで俺の靴下を履かせたけど多分足の裏は汚いはず。
どうしよう、と考えてたら、リビングの扉が開く音がして。
「……そいつ風呂入れてから来い」
振り返れば、扉に寄り掛かっている千鳥さんに言われて頷いた。
うん、諦めたっぽいな。
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