黒と銀。‐01
「───お前、なにしてんの」
「……」
それがあの時の第一声だった。
14歳の春。
深夜にはならない時刻に、路地で銀色の捨て犬と出会った。
「ちーせー」
「………」
ふかふかソファーの上、体育座りで見上げてくる目は透き通るような銀灰色。
その前で腕組みして仁王立ちする、俺。
「黙ってたらわかんないんですけど?…冷蔵庫に入ってたプリン、知らない?」
「……っ知りません」
「ほう」
「……オレ、知らないよ」
「ほうほう、へーぇ。…じゃ、その口の端についてるカラメルソースはなにかな?」
「!」
ハッとしたように口に手をやると、銀色の髪が揺れる。同時に、しまった、という目をした大型犬。
「焔紀が俺の為に作って持ってきてくれたプリン…っ!犯人はお前かぁあぁぁッ!」
「ごめんなさぁあぁぁい!!」
時任睦月19歳の春、千鳥の家でのとある昼下がり。広いリビングに二つの声が響いた。
「……まったく…楽しみにしてたのに。てゆーかお前の分あったじゃん!」
「…おいしくて、」
「まあ確かに焔紀のプリンはうまい…、じゃなくて。しばらく俺をおあずけ!」
「…ッ!!」
「そんな目で見てもダメ!」
俺が食い物の恨みは根に持つタイプだからね、ふん!
もう知らん!とソファーに千世を置いて、寝室に入って行った。いつもはついてくる犬の気配も音もなく、相当落ち込んでいるらしい。
ベッドに仰向けで転がり、天井を見上げる。
千鳥は仕事で不在。
珍しく静かな室内のふかふかベッド。
数分くらい過ぎ、その間ずっと天井を見上げていた内に、自分でも気付かないくらいにゆっくりと瞼が下がっていった。
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