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 警察署前に停車した車に、立っていた警備員が気付いて目をやる。


 運転席のドアが開き出てきた、長身の存在感を纏った男に警備員は目を見開いた。
 早くも遅くもないマイペースな足取りで署内へと入って行った男が見えなくなるまで、警備員は目を離せずにいた。



 男が署内に入っていくと、受付やまばらにいた一般人までもが目を奪われ、足を止め、手を止める。

 それ程に男の容姿は完璧なのだと思い知らされる。
 ちなみに男はそんな視線や動きをどうでもいいと思っているし、むしろ視界にすら捉えていなかった。
 受付に向かい、男は硬直している受付の人間に声をかける。



「少年課の清水という人を呼んでくれ。…知草と言えば分かる」
「……え、あ!はいっ、いますぐに!」



 焦る相手を気にもせず、蓮は電話をかける後ろ姿をただ見ていた。












 ───まったりしていたらいきなり電子音が鳴ってびっくりした。

 清水さんが謝りながらスーツのポケットから電話を取り、一言二言相槌を打ってすぐに通話は終わった。
 立ち上がる清水さんに視線を向ければ。



「お迎えが来たようだ、ここまで来てもらうから、少し待っててくれ」
「え、あ、はい。わかりました」



 もしかして、ぽっかーん、とした顔をしてたのかもしれない。
 だって清水さん笑ってたし。
 さっきまで会話をしていたから、部屋が急に静かになる。結局、誰が来るのか分からないまま迎えが来てしまったみたい。












「───どうも、お待たせしました」
「……いえ」


 お待ちくださいと言われ、近くのソファーに腰を落ち着かせていた蓮の前に、早足で近付いてきた渋い刑事。
 軽く頭を下げて、立ち上がる。



「彼は応接室にいますので、そちらまで案内しましょう」
「あァ、どうも」



 短い会話、必要最低限しか話さずに、先日店に来た清水の後ろ姿を見ながらついて歩く。
 コツコツと二人分の足音が人気のない廊下に響く。


 時々擦れ違う人間は必ずといって良いほどに蓮の容姿に目を見開き振り返る。しかし振り返る先にあるのは、存在感を纏った彼の背中だけ。

 彼が同じ様に振り返るほど、他人に興味を抱く事はないのだ。
 ただし、今向かっている応接室にいるであろう迎えを待っている人間以外にはの話である。



 小柄で、よくある茶色の髪の、色素の薄い目をした従業員。
 小綺麗な容姿のぱっと見平凡なその従業員だけは、興味が尽きないものだから。
 それが濃い愛情になって見る目が変わったのは、いつだったか。

 蓮はただぼんやりと考えていた。



「ここです、」
「どうも」



 応接室のプレートを一瞥し、清水がドアを開けてくれる。
 蓮が密かに会うのを待ち侘びたその当事者、時任睦月は、蓮の姿を捉えた瞬間見事にお茶を飲んでいた動きが固まった。



「……よォ、阿保面」
「て、んちょ?……、えー」



 まじかよ、みたいな顔をした睦月を見て鼻で笑う。

 ちょっと予想してたけどまさか本当に本人が来るなんて、とか思ったのだろう。
 嫌ではないことを知っていたから、蓮は睦月の目の前に行きふわふわな毛並みの髪を混ぜるように撫でたのだった。


 


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