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「千世には言ったの?」
「言ってねぇ」
「え」



 今日から俺がずっとここにいるのを言えば、いくら千世でも出てくると思ってた。
 出てこなかったの理由はそれか。
 せめて言ってあげようぜ、ドSめ。



「ま、いっか。前と同じでいいよね、部屋」
「……」



 …良くないのか。

 いまだ玄関前。
 靴は脱いでるけど、横には持ってきた荷物がある。


 以前ここにいた時の部屋は千世の部屋。
 空きはあるんだけど、当時は千世の躾とか慣れの為に同じ部屋にいて、慣れてきた頃に今更変えるのもって思ってそのままだった。



「めんどいから良いでしょ」
「……チッ」



 あ、諦めた。

 八つ当たりとかはないけど、若干イライラしてる理由は確実に千世のこと。
 あれからまともにご飯食べてないらしいし、ずっと部屋に引き篭りっぱなしでイライラしてるんだろう。



「何とかするよ。このままだと流石に俺もキレるから」
「キレとけ」
「そう言われると萎えるよ」



 色々と。天の邪鬼だからさ、俺。


 数少ない荷物を抱えて、千世の部屋に向かう。千鳥は自室に直行らしい。
 落ち着いたら焔紀の所連れてってもらうし。

 リビングに入って右側。
 扉は閉まってる。



「……はぁ」



 溜め息ひとつ、扉を開ければ室内は真っ暗。
 カーテン閉めきってても明るみがあるけど、夕方近いから薄暗い。
 ベッドの上で身動きする影。
 寝転がってるわけじゃないな。


 ぱちり、と電気を点ければ、眩しそうに目をつむった犬がいた。
 ベッドの上で両足抱えて壁に寄り掛かってる。



「……千世」



 後ろ手に扉を閉めて、荷物を置く。

 きっと俺がここに来たのは気付いてただろうし、飛び出して行きたかったんだろ。
 今は開いている目が、苦しそうに見えた。


 ベッドに近付いて、座る。
 スプリングが軋む音はしない。
 イイやつ使ってるからね。

 銀色の髪を撫でれば、肩が揺れる。



「千世、……ただいま」
「……っ!?」



 見開かれた目。

 いつか言ったのはお前だよ、帰ってきてね、って。
 だから俺は言ったんだよ。
 そんな驚かれても困っちゃうじゃん。


 


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あきゅろす。
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