17
「千世には言ったの?」
「言ってねぇ」
「え」
今日から俺がずっとここにいるのを言えば、いくら千世でも出てくると思ってた。
出てこなかったの理由はそれか。
せめて言ってあげようぜ、ドSめ。
「ま、いっか。前と同じでいいよね、部屋」
「……」
…良くないのか。
いまだ玄関前。
靴は脱いでるけど、横には持ってきた荷物がある。
以前ここにいた時の部屋は千世の部屋。
空きはあるんだけど、当時は千世の躾とか慣れの為に同じ部屋にいて、慣れてきた頃に今更変えるのもって思ってそのままだった。
「めんどいから良いでしょ」
「……チッ」
あ、諦めた。
八つ当たりとかはないけど、若干イライラしてる理由は確実に千世のこと。
あれからまともにご飯食べてないらしいし、ずっと部屋に引き篭りっぱなしでイライラしてるんだろう。
「何とかするよ。このままだと流石に俺もキレるから」
「キレとけ」
「そう言われると萎えるよ」
色々と。天の邪鬼だからさ、俺。
数少ない荷物を抱えて、千世の部屋に向かう。千鳥は自室に直行らしい。
落ち着いたら焔紀の所連れてってもらうし。
リビングに入って右側。
扉は閉まってる。
「……はぁ」
溜め息ひとつ、扉を開ければ室内は真っ暗。
カーテン閉めきってても明るみがあるけど、夕方近いから薄暗い。
ベッドの上で身動きする影。
寝転がってるわけじゃないな。
ぱちり、と電気を点ければ、眩しそうに目をつむった犬がいた。
ベッドの上で両足抱えて壁に寄り掛かってる。
「……千世」
後ろ手に扉を閉めて、荷物を置く。
きっと俺がここに来たのは気付いてただろうし、飛び出して行きたかったんだろ。
今は開いている目が、苦しそうに見えた。
ベッドに近付いて、座る。
スプリングが軋む音はしない。
イイやつ使ってるからね。
銀色の髪を撫でれば、肩が揺れる。
「千世、……ただいま」
「……っ!?」
見開かれた目。
いつか言ったのはお前だよ、帰ってきてね、って。
だから俺は言ったんだよ。
そんな驚かれても困っちゃうじゃん。
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