16
「…お待たせ」
「ちゃんと言ったのか?」
マンションの下。
見慣れた車の助手席に乗り込むと、千鳥が溜め息混じりに聞いてきたものだから。
「うん。まあ、微妙な感じになっちゃったけどさ」
「……それで納得したんだろ、お前は」
「まぁ、戻れたらね」
「戻れよ」
きっと千鳥は薄々気付いてる。
けれど声にして言わないのは、確信がないから。たったそれだけ。
「……」
「それがお前に出来る事だろーが」
そう言うなり、千鳥は車を走らせて家に着くまで俺も千鳥も無言で過ごした。
俺に出来る事、ね…。
車内から流れる景色を見て、これから自分に起こる事を同じように見られるかな。
当事者だとしても、どこかで必ず傍観者の立場にいる。
俺個人の事で他人を巻き込むつもりは最初から考えてない。長く続けるよりも、早く終わらせるのが適当か。
早く終わらせてくれればの話だけれど。
たかが五年、されど五年、ってところ。
深く根付くような話じゃないし、根本でデカイ何かがあったわけでもない関係だけれど。
それでも御景にとって、あの頃とこの五年は充分なモンを作れたわけだし。
なにが理由で御景が俺に固執するのか、深い所は当事者本人に聞かないと分からないから。
他人の心の奥底は本人にしか分からない。
いくら気持ちを汲み取れてもそれは一部だけの上辺、本質は誰も他人には見えない。だからこそ、俺はそれを知ることを楽しんでる。否、楽しんで来た。
奥底に何かしらありそうな他人に関わって、深いナニかを聞いて笑ってるのは俺。
その深いナニかの当事者でも、それでも俺は多分今と変わらず同じように笑うんだ。
悲しきかな、俺の性。
なんて。こういう事態を楽しんでる俺は、やっぱ結構性悪だよね。
「……千世はまだ引きこもってんの?」
「放って置け。うぜぇだけだ」
またまた、気にかけてるくせに。
マンションに着いてからの第一声は、今までと変わらない会話。
ただ千世だけは、ちょっとクセが強すぎるせいでそうはいかないんだけど。
玄関を開けたら真っ先に飛び付いて来ると思ってた半分、引きこもってるかもしれないと思ってるが半分だったから。
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