14
「……」
「ま、そーゆーことだ。……睦月、」
「ッ、はい」
「いつまで掛かっても構わねェ。ただし落ち着いたら戻って来い。…待っててやる」
───…あ。
8月の時にも、落ち着いたらって言われたのを思い出した。
どれだけ時間が掛かっても待ってるって。
俺なんかにそんな事までしなくてもいいのに。
大切な人達には甘くなる俺を知っているのかいないのか、蓮さんはいつも俺様な事を言う。
そんな事を思いながらも、俺は笑ってた。どっかで安心してる。
本当は辞めたくないんだって。
蓮さんはこの話を従業員内にも他言するつもりはないらしく、二人の秘密だとかなんとか満足げな笑顔で言ったもんだから。
その笑顔のせいで自分の顔に熱が集まってくのを自覚して、なんか意味なく負けた気分になった。
俺は結局、辞めるんじゃなくて明日から期間未定の休暇という事になった。
いつ終わるか分からないし、…それに、もしかしたらもう二度と戻れなくなるかもしれないから。
もし、なんてあんま好きじゃないけど。
俺は戻る気でいるし。
御景との事を長く引っ張り続けるつもりもないから。
「……蓮さん」
「あ?」
「ありがとうございます」
自分の中でとびっきりの笑顔で言ったら、目を見開いて蓮さんは固まった。
ちょっとショック。やっぱキモかったか。
『じゃあ、こっち来るんだな?』
「…うん。許可貰った」
『許可か…。偉そうに』
「まあまあ。……明日、大丈夫?」
『当たり前だ。迎えに行く』
あれから千鳥の家へ移住する話しもして、早い方がいいだろうと明日に決まった。
電話越しの千鳥はなんか嬉しそうだけど複雑そうだ。
御景の事があったから早まった移住。
なかったらまだ俺はここにいたのかも。
ま、いいか。
荷物はあまり無いからすぐに終わる。
だから帰ってから急遽千鳥に電話したら、即答でOK。
よっぽどの事がなければ、千鳥が断ることはないんだけど。過去の経験から。
「……千鳥、」
『明日、荷物整理済んだら、焔紀ん所連れてってやるよ』
「……うん」
気になってんの分かってたんだ。
さすがダーリン。素敵。
ある程度予定を決めて、それから少し話して電話を切った。
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