12
「……話があるんですけど」
「なんだ」
バイトが終わりいつもは先に帰っている時間、俺は二階の部屋にいた。
蓮さん専用らしいその部屋は、必要最低限のモノしかない。
御景と再会してから、二週間が経とうとしている。
今まで曖昧に考えてた話をはっきり伝える事を決意したのは今日の昼飯休憩の時。
一通のメールが理由だった。
座敷になっているそこは真ん中にテーブルがあり、向かいに蓮さんが座っている。
珍しく、煙草を銜えてなかった。
向かい側に座り、顔を上げる。
座ってすぐ口を開いたのは蓮さんだった。
「住むところのことか?」
「……いや、」
それもあるけど。
「───俺、ここ辞めようと思うんです」
切れ長の目が、わずかに見開いたのがわかった。
だけどそれは一瞬で、もういつもと変わらない目。
「…何でそう思った?」
理由くらいは言わないといけないと分かってたから、素直に伝えるつもりで考えてた。
ふと、バイト上がりなのに二階に上がって戻らない俺を泉ちゃんは疑問に思ってたりすんのかなぁ、なんて思った。
「詳しくは言えません」
蓮さんは何も言わない。
「三日前、知り合いが趣味で建てた店が火事になったそうです」
俺は言いながらも蓮さんを見てなかった。視線はテーブルに置かれたマグカップ。
だから、その言葉を発した時の表情を俺は知らない。
「原因は、放火だそうです。店は全焼。幸い死人は出なかったらしいですが、…店の持ち主が右腕に火傷を負ったそうです」
その時その場所に居たのは五人。
持ち主である焔紀、それと、八雲、棗、社、神威が居たらしい。
四人に怪我は無かった。
だけど焔紀は怪我をした。本人は大丈夫だと言ってるらしいけど、四人曰く、一生はっきりと跡が残る程だと聞いた。
「……それが、お前がココを辞めるのと関係がある、と?」
蓮さんの声色は変わらない。
だけど、何となく苛立っているように聞こえた。
放火と、店を辞めること。
関係ないように思える事柄。
だけど。
「……、これは俺個人の事情に、関係があるんです」
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