10
「───本人に会うまではね」
部屋は静かだ。
呼吸音が聞き取れるくらいに。
自分の心臓の音は正常だけれど。
忘れていた。
最近の夢と頭痛の理由は、多分前兆みたいなものだったのかもしれない。
御景に見つかっちゃったからあいつはここらへんを調べるだろうし、俺に関係する全てを見つけて、最悪手を出す。
目的の為なら手段選ばないから。
「お前は、どうしたい?」
「……うん?」
手元を見ていた俺は、その声に顔を上げる。
千鳥は特に表情の変化がない。
千世は泣きそうだけど。
「まだ、わかんない」
「そうか」
御景がどうするのか。どんな行動に出るのか、俺は分からないから。
もし何か俺の周りで起きたら、その原因が御景なら、俺のやることが決まる。
「様子見かなぁ」
「そうか」
コーヒーのおかわりか、千鳥がカップを持ってキッチンへ行くと、横から軽い衝撃。
見れば、腰にへばり付く大型犬。
「どした」
「………」
千世はただ首を横に振っただけ。
言葉もなく、ぎゅうぎゅう抱きしめてくる。
銀色の髪を梳きながら、ふっ、と口元が緩んだ。
「大丈夫だよ、千世」
「……」
こくりと頷くだけ。
まあ、仕方ない。
「お前、明日バイトは?」
戻ってきた千鳥の手にはカップがふたつ。
俺のも入れてくれたらしい。手渡されたカップの中身は紅茶だった。
「ありがと。…明日バイトあるよ」
「こっから行け。送る」
…ここからってことは多分、御景との接触が関係してんだろうな。
ひとりで居るなって事か。
いつもなら蓮さんの家まで送ってくれて、翌日歩いてバイト先まで行くわけだし。
「ありがと千鳥」
「お礼は体で払え」
「…えぇえぇぇ」
まさかの返事。
奉仕しろってかオニイサマ。
「今日はもう寝ろ」
「……うぃ」
髪をぐしゃぐしゃされて、千鳥はカップを持って立ち上がる。自室に行くっぽい。
千世を甘やかすのを許されたな。
紅茶を飲み干して、千世の頭をぽんぽん叩けば、素直に顔を上げる。
「部屋行こうか」
「……わん」
ほんの少し、千世にいつもの笑顔が戻った。まだ不安だろうに。
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