09
御景が嫌いなわけじゃなかった。だから、中一の冬まで一緒にいた。
俺が小五辺りから二の腕を切り始めた事を知っても、御景は俺から離れなかったし何も咎めなかった。
目の前で切っても、御景は見てるだけ。
ただいつしか、御景は一緒に俺の腕を切るようになってて。
同時に俺は御景の腕を切ってた。
同じ場所、同じ切り方で。
なんでそうなったかは分からないし、なんで疑問を抱かなかったのかも分からないまま、お互いの腕を切ってた。
中一の夏、御景が俺に依存している事を知った。
とりあえず、いままでの異常な独占欲も束縛も納得したよね。
たまに彼氏かよ、なんて思った時もあったから尚更。
居ないと生きていけない、なんて言われた事がある。冗談だと思った。その時は。
夏休み中、一週間くらい御景と連絡が取れない時があった。
それから久しぶりに会ったその時の御景の行動は、まず大袈裟。
会ってすぐ泣いて、泣きながら俺の腕を切り続けた。その時見た御景の腕は、付け根から手首まで広がっていた。
中一の秋、俺は御景に聞いた事があった。
『───もし、何年も会えなくなったらどうする?』
『探す。探し出して、二度と離れないようにする』
御景の中で答えが決まっていたみたいに、すぐに返事が聞こえた。
俺は確か、その時笑っていた。
『じゃあ、その時は俺を壊すくらいの勢いで捜しなよ』
『───うん。必ず探し出して、会いに来る』
中一の冬、俺は学校に行くのをやめた。
別に消える為に聞いたわけじゃないし、言ったから消えたわけじゃない。
だけどまったく関係ないわけじゃない。
ほとんど関係なかっただけ。
ただ、見つかったら壊されるな、とは思っていたから目の前に出ていくつもりもなくて。
見つからないかくれんぼしているみたいで、俺はちょっと楽しんでた。
御景の中で膨れ上がる思いなんて知らないし、愛を通り越して狂気を含んできていた事くらいしか、俺は知らない。
中二の春に千世を拾ってから俺は自分の記憶の隅に御景の事を追いやって、御景が切った二の腕の傷も忘れて、いつしか御景との記憶事態がどこか遠くに忘れ去られてった。
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