08
『───必ず、』
朝霧御景(アサギリ ミカゲ)は、小学校低学年から中一の冬、俺が不登校になるまで関わっていた。
どういう経緯で一緒に居るようになったのかは分からない。そういうのって気付いたら一緒にいるもんだし。
トモダチ。
俺と御景は、トモダチだった。
当時の御景は、明るい子。
赤紫色の髪も目も珍しいとか凄い言われたり、からかわれたりしていたけど皮肉れたり根暗なタイプじゃなかった。
よくいる、同年代と変わらない男の子だった。
ただ、小六になって少し経ってから何故か御景は学校のトモダチと学校以外で関わろうとしなかった。
御景は俺としか会わなかった。
それから御景に大きな変化が見えたのは、小学校を卒業してからで。
卒業から中学校入学までの間に今まで無縁だった喧嘩をするようになった。
不良の仲間入りってやつ。
元々運動神経が良かった御景は、高校生にまで勝ったりして。
初めて間近で喧嘩をしている姿を見たのは中一の春、中学校に入学したすぐ後の休日だった。
俺はその時まだ【黒猫】って名前とかなくて有名じゃない頃。今と同じ真っ黒な服で紫色のカラコンして、髪は染めてなかったから黒いまま。
その日は、確か夜の散歩中だった。
近くに焔紀がいたはず。まだ現役総長だったし。
光りの当たらない、裏路地でそれを見た。
仕掛けたのがどっちなのかは分からないけど、その時見たのは戦意のない体を一方的に傷付けている御景の姿。
身長も体格も違う、あれは確か高校生くらいの男。
立ってる御景の足元と、少し離れた場所に横たわる高校生と、反撃すら出来ないひとりの体に尚も暴行を加えている中学生。
横からだったけど、あの時確かに御景は笑ってた。愉しそうに。
殺意のない純粋な楽しさを帯びた子供のような笑顔で。返り血を沢山浴びてた。
御景は止まらなかった。
俺は止めなかった。
声をかける事もしてない。ただ、救急車だけ呼んだけど。
俺はそれから御景に会ってもあの時見たことを言う気はなかったし、軽蔑もなくただ変わらず傍にいた。
どれだけ喧嘩をしても、御景は大きな傷を作らなかった。
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