07
「…わん」
思考が途切れたすぐ後に、千世が小さく鳴いた。
まるで頭の中に聞こえた言葉が分かってるかのような。
千世はもう泣いてなかった。
今日は思いっきり甘やかしてやろう。
それも飼い主としてのつとめ。癒されてるんだから。癒してやんないと。
「リビング、行こ」
「……わん」
言ってすぐ立ち上がったが、千世は立ち上がらずにいたらしく腕が引っ張られた。
…返事したくせに。
なんだと思ったら、そのまま身を引かれて口を塞がれた。
「───…ッ、ん、」
「……む、つ…き」
口が少し離れる度に聞こえる千世の声が、甘すぎてぞくぞくする。
いつの間にか繋いでた手は離れて、片手が後頭部に片手は腰に回ってる。
「むつき」
何度も何度も千世は俺の名前を呼んだ。
千世のクセみたいなもの。
「…む、つき……ッ」
縋るんじゃなくて、求められている。俺を。
離すもんか、と。
渡すもんか、と。
「んぅ、ん…ち、せ…ッ……」
「…むつき、」
「は…ッ…ん、ぁと、で…っ!」
「……わん」
ちゅっ、とリップ音を立てて、だけどすんなりと顔を離した犬は、なんだか耳が垂れてるような幻が見えた。
まだしたいってか。
喰うのは後にしてくれ。
今やられたら、千鳥に話が出来ないから。吸い付くされて気力なくなるから。
「……おせぇ」
「ごめんごめん」
リビングに行けば、しかめ面の千鳥とご対面。
お怒りだ。多分千世に。
マグカップ片手にソファーに座ってた。中身は多分コーヒー。
千鳥の隣に座り、千世が俺の足元におすわりする。
その位置でいいのか。まあ、いっか。向かい合っちゃうし。
足を縮めて、ぐるりと回って全体をソファーに乗せ千鳥の方を向いた。
胡座で。
「……どっから話そうかな」
「理由が分かればいい」
御景が俺に依存する、理由。
いつからだったのかは、曖昧。
色々な事を思い出しながら話してかないといけないなぁ。
視線を明後日に向けながら、目を閉じて口を開いた。
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