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06
 



「…千世、」



 部屋に入ってベッドに千世を座らせて、向かいにしゃがみ込む。
 うつむいた千世の頬に触れた。



「あいつとの事は、後で千鳥に話すからその時に聞いて。二回言うのは面倒だ」
「……わん」



 律儀に返事をするお前って、マジ可愛い。じゃなくて。
 二回話すのが面倒というか、話の内容がごちゃごちゃするからダメなんだよね。

 息を吐いて、銀灰色の目を見る。
 千世は俺から目を離さない。



「どうしたの」
「……っこわかった」



 千世は今にも泣き出しそうで。
 繋いだ片手に力が増す。


 ───怖かった。


 何が、とかは聞かない。混乱するだろうから。



「…よく、わかんないけど、あいつの目が、」
「うん」
「睦月を、…みてる目が、ヘンで」
「…うん」
「…オレのしらない、睦月をしってるんだって」
「……」



 搾り出すように、小さく聞こえる声。
 目が潤んでる。
 ぎゅっと、さっきよりも手に圧力がかかる。痛くはない。



「オレは睦月の犬なのに、しゅじん、なのに、…睦月に、くびわ、とか……ッ」
「……」



 すん、と鼻を啜ったのは、千世で。



「……睦月が、どっかいっちゃう気がして、…オレ、また……」



 ───また、ひとりになるかもしれない。



 千世の中で、あの離れてた二年は埋まらない。
 同じくらいの、いやそれ以上の時間が必要になる。


 …まったく。可愛い犬だ。俺はダメな飼い主だな。



「…千世、前にも言ったけどさ」



 千世がこくりと頷く。



「俺がお前から離れるか離れないか、じゃなくて、」



 きゅっと口を閉ざして、千世の目から一筋、涙が流れるのを見た。
 場違いにも、俺は涙で揺れる銀灰色の目が綺麗だと思った。



「…お前が、俺から離れなきゃいいんだよ」



 しっかりしがみついて、次こそ離さないように。
 その手は、体は、お前の存在は、俺を心から癒すもの。全ては愛せないけど、俺はお前を愛しているんだから。



『───最低な俺が簡単に逝かないように、なるべく傍にいて』



 いつか言った言葉が、頭の中で聞こえた気がした。


 


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