05
「───分かったよ。今日は見逃してあげる」
「一生見逃しとけよ」
ぐっと身を引かれ、手をつかまれて背を向けたまま歩き出す。
「…猫、次は首輪を用意しておくよ」
その声が愉快そうで。
しかし返す事も振り返る事もなく歩きつづける。
振り返る必要はない。
あいつはきっと笑っている。
俺がここらへんに住んでいるのを知っただろうから、捕まえるまで離れないはず。
今あいつがどんな事をするか分からない。けど、暴力的なモノが酷くなっている事を知って。
俺と関わっているであろう人達を、あいつはきっと片っ端から調べて手を出すはずだ。
あいつは馬鹿じゃない。でも、理性的でもない。
巻き込むつもりはない。
誰かが被害を受けるという確信も被害を受けない確信も、ない。
俺ごときの事で巻き込むのは困る。
俺の周りの人達が負けたりするのを想像出来ないのはさておき。
「……もう大丈夫だよ、千鳥」
気付けば随分と離れた。
尾行されてはいない。されてたら千世が気付くから。
「犬を何とかしろ。後、帰ったら話せ」
「………うん」
あいつとの詳しい事情は、俺とあいつの当事者しか知らない。
腕の事も、何があったかも。
流石にあいつが俺に依存する理由は分からないけど。
反対側にいる千世の隣に行けば、千世は何も反応しないし何も喋らない。
なるほど。
これは何とかしろって言われるわ。
ふ、と息を吐いて、千世の手を取れば大袈裟なくらいにビクリと跳ねた。
俺を見る目は、驚きの目。
「千世」
「………む、つき、」
今にも泣きそうな、悔しそうな顔で。
「大丈夫だよ、千世」
「………っ」
少し早めに歩きながら、千鳥の家まで向かう。
帰ってくるまでそれから何も話さずに手を繋いでいた。
千世にとってさっきの出来事が何の影響を受けたのか、何を思ったのか、言葉を聞かないと分からない。
「居間にいる」
「うん」
帰ってすぐ、千鳥は居間に直行した。
一先ず千世と話せってことか。間違ってはないはず。
手を繋いだまま、千世の部屋に向かった。
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