03
「捜したんだ」
「……」
悲しげに見える目。
「あれから沢山、色んな場所を、」
心から愉しそうで。
「───俺が唯一、猫を壊せる」
心から、嬉しそうな。
隣に立つ千世の雰囲気が、今の一言で殺気を帯びたのが分かった。
離れていた手を掴む。
「……落ち着け」
「……わん」
少し離れた御景から目を離さずに。
自分にしか聞こえない声量で言っても千世には届く。大丈夫。
もし俺が目を離せば、こいつは千世を完全に認識して、悪けりゃ手を出すかもしれない。
繋いだ手すら視界に入れないようにしなきゃいけない俺の苦労ね。
めんどい。めんどいよ。
薄ら笑いを堪えなきゃなんねぇくらいだ。
「見つからなかったんだよ、」
近付いて来る様子がない。
「あれから五年だよ、猫」
何がしたいのか分からない。知ってるけど分からない。
ただ掘り起こしたいだけならウザ過ぎるんだけど。
「中一の時から」
俺、なんでこんな場所でこんな事してんだろ。
「もう、見失わない」
早く帰りたいんだけど。
「…飼い犬で満足してるような、そんな人間じゃないよ、俺は」
ぴくり、と握った手が反応した。
まあ、千世の存在を知らないわけねぇよなぁ、こいつが。
「俺だけのだから」
『俺だけの』
いつかの声と重なった。
あぁ、うざい。
「捕まえて、首輪付けて、閉じ込めて、二度と離さない」
そんな趣味ねぇよ、バカ。
「その目に俺だけを映すように、」
忘れていた傷口から、血が流れたような気がした。
左の二の腕が、ピリッと痛んだ。
「───…戯れ事ぬかしてんじゃねぇよ、ガキが」
ふわり、と視界が暗くなって後ろから抱きしめられている事に気付く。
その声に、俺は張っていた気を緩めた。
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