02
「やっと会えた。…猫、───あんたを壊しに来たよ」
笑うその表情は、目も口も純粋に嬉しそうだな、と思った。
隣にいる千世に視線すら寄越さないほどに俺だけを見ている。
千世がこいつに手を出して負ける確率はゼロに近いが、千世を深く身体的に傷付けるしそうなれば暫く動けなくなる。
千世もそれなりのリスクがある。
それをたぶん、本能が感じてる。
手を出してはいけないと。こいつはそれ程に危険だ。ただ手を出さなければ危険はない。
印象的な赤紫色の髪と同色の目。
左目に眼帯。あの時はしてなかった。
───朝霧御景(アサギリ ミカゲ)。
「…猫、覚えてる?」
答えない。
俺を猫だと最初に言ったのはこいつだった。
猫みたい、じゃなくて、猫そのものだと。無邪気に笑っていた。
「猫を最初に見つけたのは俺だったよね」
笑顔を崩さないままで、思い出しているような仕草で。
「……何で、なんも返してくんないの」
「…さあ?」
あくまでも冷静を崩さずに、どう切り抜けるか。
必要以上の情報を与えずにどこまで引き離せるか。俺がこいつに関わる事で、今の俺の情報を与えた所で、メリットなんかなんもない。カケラすら。
あの目は、昔のままだ。
マジで壊されかねない。
腕を切るだけじゃおさまらないだろう。
いざって時には、俺を抱えて千世は何の支障もなく全力疾走出来る。
けどこいつ足早いんだよなぁ、確か。
人並み外れたヤツらが競ったらどうなるんだろうか。
いつかの明とは違う、固執。
それは愛を通り越して狂ってる。
俺に何を見出したのか、何を期待してんのかどこに惹かれたのかなんかさっぱりだ。
ちんぷんかんぷんだね。まさに。
だからこそ、固執しているからこいつはあえて千世を認識しない。
俺が唯一常に傍に置いている、なんて、こいつにしたら嫉妬を飛び越えて純粋に殺意すら抱くんだろう。
今はわかんないけど。
わざわざ壊しに来た、なんてご丁寧に記憶掘り起こすような言葉使いやがって。
『───…俺を壊すくらいに』
俺はこいつを遠ざけた。
なんか俺、誰かの前から姿消すの上手くない?
色んなヤツの前から消えまくってるからいけないんですよね、わかります。
確かにあの時余計な事言ったのは俺だけど。原因は俺だけど。
こんな馬鹿正直に実行するヤツってどうなのマジで。
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