01
『行かないで、なんて言わない。
行かせない、って言って捕まえて離さないから』
───俺の予感は当たるんだ。悪いほど。
メイド服着用の羞恥プレイで終わった鍋パーティーから翌日、休日の昼間。
特にやることもないので、久しぶりに愛犬と散歩することになりました。
散歩が大好きなうちの犬はもうアレだよ、尻尾をぶんぶん降ってる幻まで見えるくらいに大喜び。
ちなみに千鳥も一緒。
買い物もついでにってことで、お散歩デートです。
リードは必要ない。
千世が俺から離れる事はないから。
駅前の賑やかな場所。
のんびり男前に挟まれながら、人の目なんかフルシカトで歩いてたら。
「……チッ、───睦月、ちょっと待ってろ」
「うん?」
千鳥の方を見れば、携帯片手にしかめ面。
邪魔しやがって的な。
電話らしく、仕事かな、なんて思って。
そこらへんにいるって言えば、短い返事が返ってくる。
ふらふらと千世と繋いだ手を振りながら、人通りの少なくなった場所に来た時だった。
ぞわり、と寒気がして、足を止めた。
横にいる千世が気付いて、どうしたのどっか悪いの、って不安そうな目をしてて思わず苦笑。
ふ、と、嫌な予感みたいなのを抱いた。
さっきまで何事もなかったのに、言いようのない不安みたいな。
事態の予想が出来ない。無性にここから離れたくて、千世の手をぎゅっと握った。
「ね、千世、千鳥んとこ───、」
戻ろう、と続けるつもりだったのに言えなかった。
言葉が出なかった。
横を見たら、千世は俺を見てなくて。
俺も、千世を見てなかった。
二人して横を見たまま、その場に固まってしまったから。
それを見た瞬間、認識した瞬間、酷く頭が痛んだ。
離れろ、って警報みたいなものが五月蝿いくらいに響いてる気がして。
握っていた手は、いつの間にか離れてた。
「…───やっと、見つけた」
二メートル以上離れた場所で、その声は嬉しそうに聞こえた。
キン、と耳鳴りがする。
…あぁ、見つかっちゃった。
無意識の内に口元に手をやって、隠すように、口端を上げた。
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