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「ふひー」
早くも午後。
ランチ時間は今までと違ってお客さんが入るから、それなりに動いたわけで。
口コミ効果?これが口コミ効果なのか?あなどれん。
開店直前の泉ちゃんとの何やかんやから、泉ちゃんは普段と変わらない態度。
ふざけたら突っ込むし。
けどま、その頭の中の葛藤が時々見えちゃったりすんだけどね。
お客さんが一時的に途絶えた瞬間とか。
どんな理由でなにを悩んで、自分がどうしたいのか。
そんなもん本人にしか分からない。
だから推測するしかない。考えるのは嫌いじゃないし。
休憩という名のサボりで奥の部屋との段差に腰掛けながら、テーブルを拭いたりしてる泉ちゃんを見つめる。
後ろ姿も美形とかありえん。
雰囲気なのか。金髪ポニーの色気は無意識だろうに。無意識で色気垂れ流すとかどんだけ。
───【黒猫】は善意で【狂犬】を助けたわけじゃない。
ただ、あの時見た暗く澱んだ目の奥で何を見ているのか。
これから先会うことはないと思っていながらも、きっとどっかしらで見かけるかもしれない思いを抱きながら、どうなるのか気になっただけで。
まあ、結局こんな形で会っちゃってるんだけど。俺は【黒猫】ではないけれど。
何かあったカンジのヤツに声をかけるのは癖みたいなものだ。
他人がどうなろうが知ったこっちゃないが、何をされてどうなるのかを見るのは俺にとって悪趣味な暇潰しでしかない。
勘違いをするのは構わない。
そうなるように言葉を選ぶ時だってある。ただ、嘘ではないだけで。
中学で不登校になる前の時の事は、あんま覚えてない。
別に頭が良かったわけじゃない。
並の、普通の男子中学生だったはず。関わって壊れてしまうものが人間なだけで。
いつか同じようになるんだろうか。
ここに働き始めて三ヶ月くらい過ぎた辺りのあの尋問というか、あれから、ここの人達は特別で。
蓮さんも千春先輩も朔也先輩も泉も好きだ。千鳥や千世とかくらい大切ではないけれど、俺の中では特別で。
だからいつか、あの時みたいに離れなきゃいけなくなるんだろうか。
「………はぁ」
やーめた。
考えてる事がめんどくなってきた。
違う方向に行ってる気がするし。
今は明日の鍋パーティーの事でも考えとこう。
どうすれば闇鍋にならずに済むか。それはそれで楽しいんだけど。
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