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「おはよーございまーす」
「………はよ」



 店に入った瞬間の空気の固まりようが変にはっきりと分かっちゃったりして。
 今日は、複雑そうな分かりやすーい表情の泉ちゃんとお仕事です。

 とりあえず眉間のシワなんとかしようぜ。
 俺は明日の鍋パーティーが楽しみで楽しみで仕方ないんだから。


 日が過ぎるのは早くて、もう明日。
 昨日と一昨日は千春先輩と朔也先輩とだったから、いつもと変わらないスキンシップという名のセクハラもあったりなんかして。


 俺は何も変わらないのに、泉ちゃんは何だか何かを聞きたそうな聞きたくなさそうな顔。

 腰エプロン付けて、今日はどんな暇つぶしをしようか考えちゃって。


 最近はお客さんの出入りが増えてる。
 常連客も増えたけど、相変わらずおじいさんは古くからの常連さんで。
 いつも決まった時間に来て決まったものを頼むから、注文がなくても慣れたもんだ。



「……なぁ」
「うん?」



 低く、それでいて戸惑いを含む声。


 冷蔵庫から食材を取り出して、以前より増えた仕込みをしようと用意を始める。
 開店までは1時間ある。
 掃除は済んでる。
 店は扉の鍵を開けるだけ。



「お前、昨日駅前にいたか?」
「えー、なんでー?」



 斜め後ろに立っているであろう泉ちゃんに振り返らずに、手を止めることなく返せば。



「いや、似たようなヤツを見たから」
「似たような人なら結構いんじゃん」



 探ってんの?
 直球で聞いてきた方が楽なんだけど。



「なんつーか、俺のいるチームのヤツを最初に見かけたんだよ」
「ふぅん」



 手慣れた野菜洗いも終わって、消毒してある包丁を台下から取り出そうとしゃがみ込む。



「……千鳥さんも、いたんだよ」
「そーなんだぁ」



 はっきり言ってくんねぇと俺もはっきり答えらんないんだけど。
 てか答える気失せる。



「……けど、」



 野菜用の包丁をまな板に置いて。
 意味ありげに言葉を止めた泉ちゃんに、そこで初めて振り返った。
 その表情は、何故か苛立っているように見えて、同時に葛藤しているようにも見えた。



「……けど、あれは確かにお前だった」
「………」
「お前は、【黒猫】なのか…?」



 じっと見つめるその目が揺らいでる。
 どう答えようか悩む必要はない。
 だって俺の答えは決まってる。


 


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