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「……はぁ?」
数秒の沈黙を破ったのは神威だった。
【黒猫】の本名も職場すらも知っているが、あえて【黒猫】と言った八雲。
どこかしら愉しげな雰囲気すら感じる。
「なにさお誘いって?」
「ほら」
しゃがんでいた棗がそのまま床を這って八雲に近付きながら問えば、八雲は携帯を開いた状態で差し出した。
メール画面を表示したそれを見ると、棗は「ぶはっ」っと吹き出した。
なんだよ、と顔をしかめる神威に棗は笑いを深呼吸で抑えて口を開いた。
しかしまだ笑っている。
「『件名、こんばんみ。
本文、四日後の土曜日に千鳥ん家で鍋パーティーやるから、四人一緒に参加強制ね(ハート)。ちなみに人数は俺含めて13人くらいだからヨロシク』……だってー」
「はぁ?」
「……13人も入るの?」
棗が読み上げた文を聞いた神威は裏返る程すっとぼけた声を出し、隣にいる社は大人数で千鳥の家に入れるのかと心配していた。
なんとも対照的な反応である。
「楽しそーじゃーん」
携帯を返した棗は笑顔で言った。
八雲は携帯を閉じ、面倒臭そうな神威と無表情の社を見遣る。
「たまには良いだろう。よく千鳥さんが許可したもんだけどな」
「いやそこ問題じゃねぇよ」
「じゃあどこだ」
「誰が来るんだろーねぇ」
幾分落ち着いたらしい神威が、棗の言葉に頷いた。
「胸糞悪ぃヤツじゃねぇよな…?」
なんとなく八雲は神威が危惧している事を理解したが、実際誰が来るのか聞いてもはぐらかされるか当日まで返信はないだろう。
そういうヤツなのだ、【黒猫】もとい時任睦月という人間は。
「さぁな。まあ、焔紀さんは呼ぶだろう。千鳥さんと一緒に住んでるらしい【銀狼】ももちろん参加だろう」
「五、七、八、……予想したとしてもあと五人不明だねぇ」
「……嫌な数字だなオイ」
八雲と棗の予想を聞き、嫌な予感しかしないらしい神威。
それを楽しむのがこの残りの三人なのだが。
「ま、楽しめりゃいいっしょ」
基本的に楽観的な棗はその一言で会話を離脱し、キッチンにある冷蔵庫へと向かって行った。
その日いつまでも嫌な予想の中の五人を消せずに悩む神威に、社はそんな悩みを晴らす手を差し延べる事なく放置してただ見ていたとか。
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