10
───…。
「……っし、良いよー」
ぱちりと目を開けて、墓石を見て。
横を見たらばっちり千世と目があって、笑って千世に次を促す。
同じように水をかけて、しっかり俺を見てたらしく目を閉じて数十秒。
目を開けて墓石を見つめる千世。
その真面目な表情は、横にいる俺の傍にひっついた瞬間崩れ去った。
もっと見たかったのにー。
最後に千鳥がお参りして、終了ー。
「ちゃんと挨拶した?」
「うん、した」
「なんて?」
「睦月の犬ですって」
「……」
可愛いやつめ。
俺も同じように紹介しといたよ。
わしゃわしゃ髪を撫で回して、嬉しそうに笑う千世がまた可愛くて。親バカかな。
「終わったぞ」
「ういー」
桶を持ってる千鳥が歩き出してく。
片付けてくれるらしい。千世と手を繋いで、ちらと墓石を見て。
頭ん中で、また来るよ、なんて言ってみちゃったりして。
「お腹すいたー」
「たー」
墓地を出て駅までのんびり三人で歩きながらぼやいてみる。
「あっち着いたらどっかで食うか」
「さーんせーい!」
「せーい!」
オニイサマ、おうむ返しな千世が可愛いんだけど!
そんな意味を込めて千鳥を見つめてみたら、なんか呆れ顔された。
分かったのか。
考えてること分かっちゃったのか。
繋いだ手をふらふらさせながら、来た道をざっくざく。
あー。
やっぱ、戻るべきかな。
落ち着きすぎてやばい。
安心してる。幸せだと感じる。
年明け前までには話しようかな。
蓮さんは多分、薄々気付いてそう。
変に聡いし、あの人。
「なんか久々に肉が食べたい」
「珍しいな」
「にくにくー」
「いや、なんかわかんないけど肉な気分。でも鶏肉ね」
「だろーな」
「とりにくーぶたにくーぎゅーにくー」
「………」
「………」
かなり千世がハイテンションな気がする。幸せそうだなオイ。
ため息を吐く千鳥に、ハイテンションな千世。
その間にいる俺。
なんだこれ。なんか懐かしいな。
こういう感じが懐かしく思える。
幸せな懐かしさってやつか。
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