09
「なに不愉快な会話してんだよ」
「あ、ありがとー」
綺麗になった瓶を持って来た千鳥は、見事に不機嫌そうな顔をしている。
話聞いてたんかい。
「すぐには死なないって」
「俺が死ぬまで生きてろし」
「えー」
それはいくらなんでも難しくね?
心中かって思われんじゃん。悪くないけどね。
水が入った瓶を墓石の両側に置いてから、持ってきてた桶から水をすくって墓石掃除にかかる。
束子と小さいブラシ使って、三人で母さんだけが入ってる墓石を洗っていく。
あの二人が死んだ後、墓の事を聞かれた時があった。
でも俺は、母さんの墓石がどこにあるかは忘れたフリして言わなかった。
入れたくなかった。ただの嫉妬だ。
だからあの二人の墓は都内にある。
行く気は更々ない。
「───よし」
枯れ葉とか色々くっついてた墓石が綺麗になって、一息ついてから瓶に花を挿す。
千鳥に火を用意してもらって、束線香に火を付ける。
これが意外と時間かかるからあんま好きじゃなかったりして。
「千世、これでどこでもいいから水をかけて手を合わせるんだよ」
「わん」
まあ見てりゃ分かるだろ。
てなわけで俺から。
水をかけて、手を合わせて目を閉じた。
千世の視線を感じる。
───…母さん。
前は千鳥と一緒だったけど、今回は一人増えたんだよ。
おかしく思うかもしんないけど、俺の愛犬。
千世っていうの。
名前の理由?
出来るだけ長く傍にいれるように。
こんな最低な俺の傍に、出来るだけいてくれるように。
愛はあるよ。母さんが教えてくれたから、愛情は分かる。
でもやっぱり、恋愛感情はないみたい。だから孫とかそういうの、期待しないでね。
ほら、俺そんなモテないし。
童貞じゃねぇけど、恋愛とかその先の結婚とか子供とか、そういうの分かんねぇ。あぁ、また夢で怒らないでね。
最近良く、夢を見るから。母さんが笑ってる夢。でも、目覚める前はいつも母さんが死んだ日の事が出てくるんだよ。
話したい事、沢山ある。
バイト先の事とか、千世の事とか、大切な人たちの事とか。
男に、しかも美形ばっかにモテちゃってんの、笑っちゃうよねえ。
母さんは何て思うかな。
なんてね。
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