06
「用意出来たー?」
「出来たー」
「ばっちりー?」
「ばっちりばっちりー」
朝ごはん食べて、まったりして。
歯を磨いて着替えに取り掛かってから数分。いや数十分。
陽気な、楽しそうな声。
ダメージジーンズに、薄めのオフホワイトVネックセーターと黒のパーカー。ちなみに耳付きだったりする。
千世は寒すぎない限り厚着しないから、俺とお揃いの色違いで黒のVネック。
若干ゴツめのネックレスを千世に付けちゃって、なんなのこの犬まじかっこいいんですけど。
長くなった銀色の髪は一つ結びにしてやって。
よしよし。
携帯よし、財布よし、ハンカチは千世に持たせた。仏花と線香は現地調達だ。
「行くぞー」
「わんっ」
戸締まりよし、鍵は千世がチェーンに繋げて持ってる。
いざ、墓参り!
「───さっき顔見えたけどすっごいかっこいいよ!」
「背ぇ高っモデルかな!?」
「えー、でも雑誌で見たことないよー」
「後ろ姿が可愛いようなかっこいいようなー」
すっげぇきゃぴきゃぴ聞こえる。
しかしここは車内だ。
そしてきゃぴきゃぴ言ってる女性から俺は見えない。なぜなら。
ドアの端にいる俺は、千世が隣に居るっつか斜め前?とにかく俺の目の前には千世がいるから見えない。
つうか後ろ姿なのによくそんな騒げるな。びっくりだよ俺は。
まあ可愛さが滲み出てんのは多分、いや確実に千世の視界に俺しか入ってないが為の喜びか。
人が多かったりうるさすぎると、素で無表情になるんだけど。
「睦月、つかれない?」
「だいじょーぶ」
「つかれたら言ってね!だっこするから!」
「いや遠慮しとく」
千世が「抱っこ」宣言した瞬間に、後ろの座席で吹き出す音が聞こえた。
千世の声が聞こえたっぽい。
確かOLさんだった気がする。すみません、うちの犬俺しか見えてないもんだから見境なくて。
犬だからって言っても。
こういう場で「わん」って返事すんのとかそういうのは禁止してるから多分大丈夫だとは思うけど。
千世はちゃんと分かってる。
自分が人間で、誰かの犬として飼われていることが異常だと。
まあ、時々すっとぼけて普通に返事してんだけど。
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