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 幸せな気分のまま署に戻ってきて、応接室に入ると清水さんは仕事があると部屋を出て行った。山田くんも仕事だ。
 応接室にいるのもなあ、なんて思って仮眠室に入りソファーベッドに身を委ねる。


 話って、住むところとか考えてくれてたんだ。嬉しさがまた込み上げてきてにやける。
 なんかもう怪しいとか気にしない。
 だって一人だもんっ。なんつって。


 にやにやしてたら、テーブルに置いてた携帯のバイブレーションが響いた。見れば、朔也先輩からの電話。



「っはい、もしもし」
『今、大丈夫か?』
「大丈夫ですよー、どうしました?」
『三人の言い合いがうるさいんだよ。本当面倒臭い』
「…え、言い合い?」
『お前と蓮さんの同棲の事』
『───朔也センパイ!同棲って言わないで下さいよ!』



 後ろから泉の声が聞こえて思わず吹き出した。
 朔也先輩が溜息吐いてる。言い合いって。



『俺はまあそこまで否定的ではないが、アイツには気をつけろよ』
「…え、あ、ハイ」



 アイツって。
 店長のことだよね。アイツって言ったよこの人。
 けど、その言葉に店長からの批判とか文句は聞こえない。実際、従業員で上下関係はないに等しいしなんだか友達みたいな、家族みたいな。


 どうでもいいと言いながらもちゃんと人を見てる。基本的に干渉はしないし、なにをしようが関係ないというような。
冷めてるようで温かい。




 やばい。
 なんだろうこの幸せ。
 幸せでどうしよう。
 もうゆるっゆるだ。



『とりあえず、終わったら連絡しておけよ』
「はあい、わかりました。お疲れ様です」
『じゃあな、おやすみ』
「おやすみなさいっ」



 くすりと笑う声が聞こえて、通話が切れる。こんなに長く幸せな余韻を楽しむなんて、初めてかもしれない。



 これからまた違う生活が始まる。
 楽しみなのと、ちょっとした不安も当たり前のようにあるけど、それすらもあの生活に比べたらめちゃくちゃ幸せな気持ちになれそうで。
 二の腕を切る事はなくなるかもしれない。いままでやっていた自傷行為がどう変化するかなんて分からないけれど、何が起きるかも分からないわけで。
 だからこそ、楽しむんだ。
 客観的に見すぎて、予想外が無かったつまらない毎日が変わるかもしれないな、なんて思った。


 なんでだろう。
 もう、ゆるゆるが締まらないとか本当なんなの。
 きもいとか分かってます。けど幸せなんだから、これくらい許せ。


 毛布を手繰り寄せて包まって、幸せでふわふわでゆるゆるなまま目を閉じる。
 そのまま、眠りの世界に向かって意識が飛んでいった。






 朔也先輩との電話のあと、しばらく言い争いが続いていることなんて、俺は知らない。


 

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あきゅろす。
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