08
『二度と会わねぇ事なんざ許されねぇよ。それは俺の欲で、勝手な願いだ。
黙って頷いて甘えとけよ、他人の勝手な好意ぐらい』
「あれ、久しぶりに見た」
「この間フルメンバーで顔合わせただろ」
千鳥に甘えに行ってから、早三日。
今日は久しぶりに泉とらしい。タメだから敬語はなし。バイトだと敬語のが楽なんだけど。
とりあえず金髪ポニー、久しぶりに見たよ。
この間っつっても、久しぶりなもんは久しぶりなの!
蓮さんはいつも通り2階に引きこもり。何してんのかは不明。
「ねー、泉ちゃん」
「ちゃん付けんな。───なんだよ?」
腰エプロンを付けながら、カウンターと繋がった調理場に立ってる泉に声をかける。
いやね、ちょっとびっくりしたんだよ。
「開店前なのにお客さんが、二、三人並んで待ってんのさ」
「……はぁ?」
「嘘じゃないって、マジだから」
振り向いて泉の顔を見れば、なんかぽっかーんとしてる。
そんなアホ面すら絵になるお前も、かなりな男前だと確信するよ。
「開けんぞ」
「おーぅ」
下拵えをしながら返事をする。
やっぱ最初のお出迎えは美形でないと。
泉が怖面なのはまあ愛嬌にしといて。
- ちりん
「…いらっしゃいませ」
「きゃッ!美形!」
「ほらー言った通りでしょ?」
「お前ら早く入れよ」
ほら。
嘘じゃないでしょ、泉。
だからそんな顔して俺を見んな。いくらなんでもびっくりし過ぎ。
「席はお好きな所へどうぞー」
黙っちゃった美形、泉の変わりに営業スマイルで言った。
まあ俺はほかの従業員より全然下だから、ああいう驚きは、
「あの子かわいー」
「柔らかいね、イイ組み合わせだわ」
「バランスかよ」
あったよ。
ちょ、え?なにそれ?素直にびっくりしたわ。
いい感じにテンポ良く会話する、女性客二人と男性客一人。
ツッコミポジションの彼はどうやら道連れらしい。
「…決まりましたらお呼び下さい」
「はーい」
「すごい、メニュー豊富」
「……うまそうだな、迷う」
泉が渡したメニューに目を通しているお客さんを見てたら、ゆっくりと泉が近付いてきた。
その顔は、眉間にシワ。
「………ナニコレ」
俺が知るわけあるか。
[*][#]
[戻る]
無料HPエムペ!