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どうしよう選び放題じゃん、目移りしちゃう。じゃなくて。
まじでどうしよう。
うんうん悩んでたら、するりと顎に手が添えられた。見れば店長の手。
くいっと顎を上げられて、顔ごと店長と目が合う。
え、なにこれ。さっきから、なにこの状況。
「分かったな?」
「……ッ、」
超イイ笑顔の店長が至近距離。まじ近いです店長。
目が離せない。
マジだ、この人は、マジだ。
ぱくぱくと小さく金魚みたいになって、
「ぁ、う……うー…」
「迷惑だと思ってたら言わん。余計な事考えンな」
分かったな、ともう一回言われて。
心まで読まれて。
ああもうなんなのまじで。苦笑いしか出ないよ。嬉し過ぎて、にやけるよ。
こくりと、小さく頷いた。
店長が満足げに、にやりと笑った。
「ああもう、ダメだよあんな顔しちゃ」
「無防備過ぎる。いつか喰われるぞお前」
店長の手を叩き落として、千春先輩が困ったように言って。
泉の発言にはちょっと理解したくない部分とかまあ色々あったような無かったような、無いと信じたい。
店長、すんごいご機嫌ね。
というわけで。
何がなんだか把握出来ずに、俺は、知草店長の家でお世話になることになりました。
てか、これって同棲?
そんな事を呟いたら、千春先輩と泉と朔也先輩の雰囲気が冷たくなった気がした。
気がしただけ。そう思いたい。
お昼ご飯に清水さんと新人山田くんはオムライスを注文した。
俺の胃の具合を知っている店長は、負担のかからないものを作ってくれた。
知っているのは全員だけど。ちなみに和食で少なめ。この至れり尽くせりな感じが良い。
美味しいご飯を食べて、俺は署に戻る事になる。まだ終わってないのだ。
べ、べつに忘れてたわけじゃないんだから…!なんて、ちょっとツンデレ指向になってみました。
また連絡します、と伝え、俺は清水さんと新人山田くんと共に喫茶店を後にした。
署に戻る途中の車の中、無言だった清水さんが不意に口を開く。
ちなみに運転してるのは新人山田くんで、俺は後部座席に清水さんと座ってる。
「世の中まだまだわかんねーな…、あんな容姿の人間がいるとは」
なるほど。
そりゃあ、あの容姿なんてモデルとかそういう人間くらいだ。いや、あの人達はずば抜けてモデル以上なんだけども。
一般的に目を引く容姿と、存在感。
「俺も、最初はびっくりしました」
「けどま、良い人達だな」
「……はい、大好きです」
思わず口元がゆるんで、へらりと笑う。
ゆるゆるだよもう。
「…愛されてるな」
「そうですかね?…まあ確かに皆優しいですけど」
「目がな」
「……め?」
清水さんを見れば凄い優しい目をしている。なんだろう。
「睦月を見る目が優し過ぎるくらいでな、愛情すら感じちまったよ」
愛情。あいじょう。
じわじわと溢れて来るなにか。
大好きな場所、大好きな人達、大好きな雰囲気。
愛情は受け入れる。けど、俺は同じものを返せない。受け取るだけ。
それを俺の愛情で返す。
だけどそれはきっと同じものじゃなくて、時々感じる本能が溢れるような眼差しとかは気付いていたけれど。
もしそれが、恋愛感情だとしても。
自意識過剰だとかそんなんでも構わないけど、例えばやもしもの話で、俺はそれを受け入れるだけだ。
なんて自分勝手な。それでも。
「にやけてんぞ」
「…えへへ」
俺は俺を変えない。
それで離れて行くような薄っぺらい関係なら、迷わずそれを切り離す。
俺はこの性格と性質を引き連れてこれからも人生渡り歩いて行くのだ。やりたいことを出来る限りやるだけ。
臨機応変にね。
ふわふわと温かいなにかが心を包んでて、にやにやが止まらない。あの店にいるといつも温かい。
ああもう好きすぎる。
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