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03
 



「……何だ、早いな」
「おはようございます、たまたま起きちゃって」


 朝7時。
 部屋着のままキッチンに立っていると、蓮さんがくわえタバコしながら出てきた。

 コーヒーを淹れて、カップを渡す。



「軽く食べます?」
「あァ、パン一枚でいい」
「じゃ、スクランブルエッグも作りますね」



 返事がないってことはいるってことか。

 食パンを二枚、自分の分も一緒にトースターに入れる。
 トマト食べたい気分だ。添えよ。




 あのあとはそのまま眠れなくて、ずっと起きてた。
 左の二の腕には包帯を巻いてあるが長袖パーカーを着てるから見えない。


 数十ヶ所、同じ力で何度も切って。
 拭き取る事もしないで手首まで流れる血をぼんやり見てた。
 いつも切った時は放心状態だし。癖みたいなもんだ。



「どーぞ」
「サンキュ」



 テーブルに、トーストとスクランブルエッグと切ったトマトを載せた皿を置く。


 切った後の痛みが好きだなんて、俺はだいぶイってる。
 じわじわじんじん痛む傷と、包帯の締め付けが好きだなんてさ。




 向かい合っていただきますして、トマトを食べる。

 ぼんやりと、皿に乗っている黄色い卵と茶色いトーストを見ながら。


 ───限界かもなぁ。



 そんな事を、ふと思った。
 なにが限界なのか自分でもよくわかんないけど。








「いってらっしゃい」
「あァ、」



 玄関前で蓮さんを見送って。
 今日、俺は休みだ。


 閉まったドアを数秒間ぼんやりと見つめてた。



「………ふあぁ」



 寝不足だなぁ。

 伸びた髪の毛をぐしゃぐしゃにしながら、朝食に使った皿を洗おうとキッチンに立つ。



「……」



 どこか、ぽっかりと穴が開いているような気がした。
 何かを考えようにもうまく考えらんない。

 そういう時に限って、うまく考えらんないような事を考えようとするんだから、めんどいったらないよ。


 皿を洗い終えて部屋に戻れば、携帯の着信を知らせるライトが点滅していた。



 


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あきゅろす。
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