02
運転手が救急車を呼んだから、ひき逃げにはならなかった。捕まったけれど。
「………あながち間違っちゃいないんだよな、」
『───お前が母さんを殺した!!』
部屋に戻って、ベッドに座る。
眠気は覚めてしまった。
病院のベッドの上、白い布で顔を覆われた母さんの隣で立っていた。
駆け付けた父親と、長男。
確か、長男にど突き飛ばされたな。
母さん母さんって叫びながら、俺を邪魔だと言うように。無関係の他人だと言うように。
その病室で、言われたんだ。
───お前が死ねば良かったんだ。
母さんの事は、父親はもちろんアイツも好きだったから。みんな母さんが大好きだから。
まあ、確かにしばらくは思った。
俺を邪険に扱う理由とか、産まれた理由とか。死ねば良かったんだ。死にたい。
アイツは自分を可愛がる父親より、母さんの方が好きで。母さんが俺を可愛がるのが面白くなくて気に入らなかったんだろう。
もういないけれど。
終わったものは、なくなったものは、過去だ。過去はどうにもならないのを分かっていたから。
母さんの愛情があったから、俺は愛情を与える事も受けることも出来る。だけど、それだけだ。
自分でもこんな歪み方するなんて思わなかったっつーの。
「……はー…ぁ」
ぼふん、と、座った状態のままベッドに倒れ込む。
足が床から離れて、ふらふらさせる。
自分が寝不足気味なのは分かってた。
夢見が悪いのも含めて。寝付きも悪いままだ。
「……」
するりとベッドから起きて、ボックスから顔用の小さいカミソリを取り出した。
久しぶりだ。
カチリ、とカバーを外す。
過去二の腕につけた傷痕は、もう消えないだろう。はっきり残らなくても肌の色が変わってる。
「───…」
新品だから力入れなくても切れるけど、今は思いっきりやりたい気分だ。
ぐっと、強くカミソリを押し付けただけで肌が軽く切れるくらい力を入れて、引いた。
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