01
『睦月は睦月のままでいて。
大丈夫よ、そのままで。
貴方はこの世界で唯一の貴方なの。
大切な人を守れる男になってね』
───声だけが、暗闇で響いてるような気がした。
『ほら、睦月って時々、───なんか自虐的な所があるでしょう?』
そうだね。
『大きくなっても変わらないと思うのは失礼かしら。
けどね、あなたは私の息子だから。
あの人は、ほら、●●ばかり構うじゃない?
でも私は二人の母親だし、差別するのはね?───』
母さん。
『私は、貴方に、愛を知らずに育ってほしくないの』
───母さん。
『愛してる。ずっと、いつまでも変わらず、私は睦月を愛してる』
『───た!…お前が殺したんだッ!』
───。
『お前が母さんを殺したんだッ!!』
「…ッ!!…───、」
視界に映る変わらない白い天井。
11月も近く、涼しい時期になったのに汗が酷い。
「……っ、ハッ…」
───最近、夢見悪くなったな。
そう思うのは、なぜだろう。
母さんが夢に出てきた時はなにも感じなかったのに。
笑顔の母さんから、切り替わるのは。
忘れたくて、今まで忘れていた、声。
「……めんど、」
寝癖が酷そうな頭をかきながら、ベッドから下りてリビングへ。
窓から見えた外は薄暗い。朝方かな。
静かなリビング。
蓮さんはたぶん寝てる。
なるべく音を立てないように、冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出してコップに入れ、その場で飲み干した。
まだ汗が引かないし。
「……何なんだよ」
いまさら。
今更過ぎて笑えるくらい今更だ。
母さんが死んだのは、事故だった。
覚えてる。俺は目の前にいたのだから。
二人で買い物に出掛けていた時に、脇見運転の車に引かれた。道路側にいた俺を庇って。
赤かった。
目の前は、真っ赤だった。
車も赤かったから余計印象が強い。
───母さんは即死だった。
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