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09
 


「ま、話は分かった」


 店長が清水さんを見て言った。


 え、なに、誰も新人山田くんを視界に入れてないの?
 なんか淋しそうだよ、お茶とにらめっこしてるよ。俺もスルーしてるけども。



「あァ、そうだ、睦月」
「はい?」



 店長と目が合う。
 心なしか、すんごい楽しそうだ。
 だって、カウンターの向こうから泉の呆れたような溜息が聞こえた。
 え、なになに。
 千春先輩が険しい顔してるんですけど。



「お前、俺の家で一緒に住む事になったから」
「………え」



 住む事になった?
 うん、……え?ワッツ?わんもあ。

 ぽっかーんって口が塞がらない。
 いや閉じるけど。閉じるけど、ちょい待て。



「…なぜに」



 俺は時々思った事がそのまま声に出るらしい。まじで、なぜに。



「ちょっと、なに言ってんの!?」



 千春先輩がこんな動揺してんの久しぶりに見たー、とか思ってる場合じゃないよね。うん分かってる。



「決定事項だから」
「ぶっ」
「ぶはっ」



 店長の言葉に、見事にお茶を吹き出した清水さんと新人山田くん。
 めちゃくちゃ噎せてるよ。
 さりげなく泉がおしぼりを差し出してるのを横目に。しかし俺は、それどころじゃない。

 一緒に、住む?
 店長と?え、同棲?



「な、なん、」
「お前、あの家に居ンのか?こいつらじゃ危ねェし、お前ひとりで暮らして行けンのか?」
「「…あんたが1番あぶねーよ」」



 店長は千春先輩と泉のツッコミをスルーした。
 千春先輩の口調が変わったって別に気にしない。気にしちゃいけない。
 つか、どこまで俺様なんだ、この人。

 ぶっちゃけ、あの家でこれから先過ごして行く気はない。
 でもあの人には頼れない。いや、連絡すれば即答で許可出るとは思うんだけど、でもダメ。
 だから、どうしようか悩んでたし住み込みとかさせてもらえるのかとか色々考えてたんだけど。


 確かに店長は頼りになるし、しっかりしてて俺様で自分勝手だけど。
 本当は、すんごい魅力的な話で。
 かなり助かるし、経済的にも精神的にも悪い話じゃない。

 けど、



「…いや悪いですよ、なんか。確かにひとりじゃやってけないし金銭的にもあれだし、あの家でってなったら、そりゃあ店長の話はすごくありがたいです。でも、」
「───言ったはずだ、決定事項。下らねェ事で頭抱えるくらいなら、俺ン所に来ればいい。それだけだ」



 じんわりと、温かいなにかに包まれたみたいになった。鼻の頭がじんじんして泣きそうだ。



「ダメだよ睦月、こんな危ない人と住むなんて、」
「お前の身が心配だ。とりあえず俺のとこに来い」



 え、え、なにこれ。
 先輩二人がマジな目で言ってる。
 てか泉ちゃんずっと無言だけど、どうしたんだろう。
 目を向けたら、呆れた顔してました。

 ですよねー。



 


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