08
「……清水さん、」
「え、あ、いや失礼」
声をかければ、清水さんは慌てて視線をそらし咳ばらいをしてから今日の行動とここへ来た経路を話し出した。
無言で煙草をふかし、店長はじっと清水さんを見ている。てゆか、皆さん新人山田くんを見てあげてっ。
手短に話をした直後、鈴の音がして全員の視線が扉へと向いた。
「……只今帰りました」
一瞬目を見開いたけどすぐに笑みを見せた、肩まである焦げ茶色の髪の毛をひとつに結った爽やか王子様。
日向千春先輩。
この喫茶店で1番長く勤めている。
野菜のはみ出したデカイ茶色の、よく漫画とかである紙袋を抱える姿すら爽やかさを際立たせてますね!
が、しかし。
人は見た目で判断しちゃいけないよね!
ところで、と千春先輩は王子の微笑みをしながらつぶやく。でも目が笑ってない。
「僕抜きでまあ楽しそうなお話をしていますね。…連絡のひとつ出来ないんですか?使えねぇなまじで」
「ハッ、買い出しのトロい奴が悪ぃンだろーが」
あああ、睨み合ってるよ、まじこわい。
千春先輩の言葉の語尾が辛辣だったのは、もうなにも突っ込むまい。
店長がニヤリと笑って、千春先輩が微笑んで、火花すら見える。
目がマジだよ。
はあ、と溜息を吐く千春先輩と目があった。
こう、ばちこーん!と。
え、なになに。
俺は目が離せないし千春先輩は俺を見たまま、真っ直ぐこっちに向かって歩いて来る。
そんなに間隔は開いてないけど。
汗が出るから。冷や汗が。
「睦月、」
「っはい!」
ハイいいお返事、みたいな超笑顔。
そしてかなり近いです。
綺麗な顔が、目が、迫る。色々と意味を込めてどきどきする。
「おかえり」
「───…っ、ただ、いま」
たった二、三日。
それでも優しくおかえりって言ってくれる人達。さっきとは正反対の、千春先輩の優しい目から目が離せない。
「おい、テメェ近すぎンだよ。誰の目の前でそんな近く来てやがる」
だがしかし離された。
いつの間にかカウンターの向こうから出てきた店長に、見事に離された。
気配ないのやめてほしいんですけど。
千春先輩が抱えてた紙袋ごと、千春先輩を押して距離を離す店長。容赦ないな。
てか舌打ちしてるから。
千春先輩舌打ちしてる!素が出てる!
ちょ、店長、鼻で笑わないでクダサイ。
思いっきり蚊帳の外な清水さんとか呆然としちゃってるって。
恥ずかしい。色々と恥ずかしいから。
そんな俺の思いは無視な店長は、白い煙を吐き出している。
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