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 あくまでもついでだと、慧はにっこりと笑顔を浮かべる。



 二年前に姿を消した【黒猫】は、その更に一年前にストーカー被害に遭っていた。
 しかしそれは自然と姿を消していたため大事になることはなかった。

 アキラは【黒猫】に固執していた。
 あの雰囲気と、気まぐれさと、強さと。
一種の憧れのようなもので。
 それがいつの間にかに好意に変わり、そして誰の物にもならない、することは許されない【黒猫】が欲しくて欲しくて堪らなくなって。
 その好意は相手を知りたいという狂気に似た欲に変わり、【黒猫】を付け回すようになる。
 しかしそれは半年で終わる。


 当の【黒猫】本人がそれを面白がってわざと分かりやすく、付け回しやすく動いていたことなど知るわけもなく。
 そして更に、付け回すだけの面白くないアキラに飽きて見つけられない動きをしていた事にも気付かずに、アキラは【黒猫】だけを見ていた。



「知らないとでも思った?アキラくん、残念ながらバレッバレだったからー」



 ね、と笑う慧の表情に変化はない。
 ただそれが逆に、恐怖心を煽った。



「だーけーど、安心してねー。これは後輩の事のついでなんだ」
「……っあ…」



 先程までの威勢はどこへやら、というくらいにアキラは声を出すことが困難になっていた。




 動けない。目が離せない。
 カラコロと微かに聞こえる音と甘い匂いが、ここまで怖いと思うなんて。


 ───あれはほんの出来心だったんだ。
 伝説のように語られる【黒猫】の噂を耳にしたのは、いつだっただろう。
 黒髪に紫色の目、気まぐれで神出鬼没で人に懐かない。いつからか【銀狼】が現れて、狼を従えながらも喧嘩が強い。
 そいつを傍らに連れているのが当たり前になってて。
 無関心なのに、仲間を絶対に裏切らない。

 気付いたら【黒猫】を捜していた。
 気付いたら【黒猫】を見つける事が出来なくなってた。
 気付いたら【黒猫】は夜の世界から姿を消していた。

 八つ当たりだったんだ。
 ただ、【黒猫】と少しでも関わったチームを潰していくことは。
 一言喋っただけでも、姿を見ただけでも、それらだけで理由になった。




「一人残らず逃がしませーん」



 ───ああ、逃げられない。

 息を飲んだアキラの視界には、楽しそうな慧の笑顔だけが映っていた。


 


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あきゅろす。
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