10
ガツッ、と何かがぶつかる音。
ドンッ、と崩れる音。
その二つは、一カ所からほぼ同時に倉庫内に響いた音で。
「……ぐ…っ!」
「後輩の教育がなってないよー?」
「「教育者もねぇ」」
体がコンクリートの上に倒れ、鋭い目付きで相手を見遣るのはアキラであった。
その視線の先で桃色の髪を乱す事なく立っている慧の白い棒が突き出た口元が、ゆるりと薄ら笑いを浮かべている。
動く者はいなかった。
自分達のトップが、ものの数秒で倒れている。
その人物は自分達よりも強いからトップにいるわけで、そして小さいながらもいくつものチームや暴走族を潰してきた人物で。
しかし倒れている。
いとも簡単に、両手をポケットに入れた状態のままの相手に、蹴り倒された。
「───逃げられると思ってんのー?」
突然だった。
そこにいた全員が変化のない声にぞわりと背中が粟立つ。
重さも高さも変わらない声と倒れ込んだアキラを見つめたまま、にんまりと口端を上げたのは慧である。
コロ、と口の中の飴が歯に当たる音がやけに響いたように聞こえた。
逃げ出そうと動いたのは誰だったか。
慧とアキラを中心にして、出入口側にいた数人の後退る足が止まった。
「おいたはいけませんね」
背後からの声にびくりと身体を強張らせて振り向けば、そこには制服姿の美人。
しかし男である。
柔らかい笑顔の後ろにあるどす黒いナニかは、きっとその場にいる全員が見えている。
「……ひッ…」
「あ…っ……」
その柔らかい印象の目から、目が反らせない。蛇に睨まれた蛙のように体が動かない。
「「袋のネズミぃー」」
ケラケラと笑ったのは双子だった。
いつの間にかにしゃがみ込んで、悪戯っ子のような笑みを崩さない。
呼吸が止まるような感覚を抱いたのは誰だったか。
これから起こる事に不安を抱いたのは誰だったか。
たった五人だと嘲ったのは誰だったか。
「ね、アキラくん」
「……ぁ…ッ」
慧の声色は変化を見せない。
けれどアキラは恐怖心を抱いた。
「キミ、【黒猫】のストーカーしてたんだってねー」
その言葉に目を見開いたのは、きっと五人以外の全員で。
なんで知っているんだと。
なぜそれを知っているんだと。
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