09
「もう時間だ」
「来てねぇっすよ、アキラさん」
倉庫の中央、詰まれた木箱に座るガタイの良い見るからにチームのトップであろう制服姿でアキラと呼ばれた高校生がひとり。
顔を歪め、出入口を見ていた。
返事をしたのは後輩である。
着崩した制服にアクセサリー、染めて痛んだ髪。
在り来りな格好をした制服姿の男が二十人以上集まっていた。脇や手にはバットや鉄の棒が握られ、明らかに卑怯さが滲み出ている。
「怖くていけない!みたいな」
「ぎゃははっ!どんだけー」
「ほんっと、ソイツどんだけー」
「───…うわっ!」
しゃがんだ状態で会話をしていた二人の高校生と同じようにしゃがんで、両脇にいる二人の肩に腕をかけて笑う桃色の髪を結い上げた人間を、目の前に立っていた一人が見て息を飲んだ。
両側にいた高校生が声を上げる。
立っていた一人は、くわえていたタバコが足元に落ち開いた口が塞がらないという状態。
「っお前!いつから…!」
叫んだのはアキラである。
木箱から飛び降り目を見開いている。
気付かなかった驚き、目を見張る程の容姿に対する驚きが入り混じっていた。
「「気付かない君達がどんだけー」」
「…!?」
「な…っ」
綺麗に重なった声に振り返れば先程まで自分が座っていた木箱の上、その端の左右に立ってにんまりと笑う髪色の異なる瓜二つの顔があって。
「あんたが、アキラくん?」
「……ッ!」
桃色の髪を結い上げてカラコロと飴玉を転がしながら笑う美男が、気づけば目の前にいた。
驚きどよめく者、その容姿と漂う雰囲気に息を呑む者。
そのおちゃらけた声色に、アキラは息を飲んだ。
「っ、テメェら……っぎゃぁ!」
「!?」
バットを持った一人が腕を振り上げ声を上げた瞬間、その声が叫びになった。
その後ろには相手のバットを持った腕を捻り上げた翔太郎が無表情で立っている。
「ノンノン、喧嘩は素手じゃなきゃあ、ダーメ!」
チッチッ、と慧は人差し指を立てて左右に動かし、メッ!という顔で言う。
なんとも緊張感のない行動である。
「あのねぇ、アキラくん───」
にんまりと笑いながら、慧は声を途切らせる。
そして、ヒュッ、と風を切る音がアキラには聞こえた。
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