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05
 


「おまたせしました、」
「よし、じゃあ行くか」


 持ってきた服に着替えて寝癖を整え貴重品だけ持って応接室に戻ると、清水さんはコーヒーを飲み干しタバコを消して立ち上がる。


 外に出れば快晴で、心地好い風。
 でもやっぱり日差しは暑い。
 清水さんと新人山田くん、それと昨日一緒にいた検視官っぽい人数人と共に今度はは一般的なワゴン車で移動らしく、白いワゴンに乗り込む。


 あれからあまり変わりはないらしくて、色々大丈夫なんだろうか、なんて思う。
 俺の隣には清水さん、その隣に新人山田くん。運転は検視官さんのひとりで助手席にひとり、あとは後ろにいる。
 なんだか違うどきどきを味わいながら、あの家へと行く風景をのんびり見た。



 数時間振りに、住んでいた家に帰る。
 黄色いテープ、ブルーシートが掛けられたそこは、さながら刑事ドラマ。まさか自分がこの場面に立つとは。
 部屋に入り、清水さんが俺の方を見る。



「とりあえず、すまないがまた当時の事を再現してもらいたい」



 清水さんは本当にすまなそうに言った。そのためのこれか、と納得する。
 頷いて昨日の入浴から説明をしつつ再現を始めた。

 覚えている限り細かく、長男役を務める新人山田くんと向かい合いシャワーノズルを持ち、左手で山田くんの左手を掴む。
 その時目に入る、手の平の包帯。ずきりと痛んだ気がした。が、まあスルーだ。
 抵抗の形を再現する。
 不安そうな目をした山田くんの視線の先には俺の左手で、痛くないのかとでも言いたげ。が、まあスルーだ。


 長男がどれくらい包丁を首に刺したまま立っていて、どんな風に崩れ落ちたのかを説明しながら、その後の自分の行動も再現する為に動き続ける。


 生憎父親の死に様は知らなくて。
 だから、死体の状態、血痕などを頼りに調べるのだそう。

 ふと時計を見たら、時間経過なんと3時間。びっくりだ。




「おつかれさん、助かったよ。お腹は空いてるか?」
「いえ、お疲れ様でした。……お腹は、多少」



 清水さんの言葉に、俺は自分の胃の辺りを見て摩る。負担にならないものならいけそうな気がする。


 新人山田くんも含め、三人で外に出る。
むわりとした暑さですぐに汗がにじむ。早々と車に乗り込んで、一息。



「よし、近くにファミレスがあったろう、そこにするか?」



 そこでちょっと考えた。
 お昼、お昼かぁー…んー、あ。



「あの、行きたいところがあるんです。お昼も食べられますし」
「そうか?なら案内頼むよ」



 あっさりOK。さくさく進む感じが良いね。
 とりあえず大まかな道程を伝え、車は緩やかに走り出し家が離れていく。
 けど、やっぱりなにも感じなかった。






 ───目的の場所へ続く細道へと誘導して少し行った所でパーキングに車を止め、外へ出る。


 歩けばすぐに見えてきた、そのお店。
 小綺麗なアンティークの外装に、シックな扉。両脇には花壇があり綺麗に花が咲いている。ちなみに植えたのは俺だ。何もなくて寂しかったから。


 扉には真ん中に『R』とだけ、ゴシック調でかかれている。ゆっくりと扉を開ければ、ちりんと小さな鈴の音が鳴る。


 店内に入ると目の前には五人分がゆったり座れるカウンター。右側には、四人座席がふたつと二人座席がひとつ。
 左側には観葉植物と、シンプルでこれまた綺麗なアンティーク風の食器棚。
 ざっと見て十五人で満員になるほどの小さな喫茶店。穏やかに流れる大き過ぎず小さ過ぎずの音楽とコーヒーと甘い香り。
 大好きな雰囲気と香りに包まれる。


 今日、誰だっけ。
 そんなことを思った。


 


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