01
文化祭デートから早四日、蓮さんに買い出しを頼まれた帰りに店が見えた時、ぞわりと背中が粟立った。気がした。
自転車を元の場所に置いて、聞き慣れた鈴の音と共に店に入れば。
「……ぇー…」
「あ、これうめぇ」
「「ひとくち!ひとくち!」」
「お前らそう言って三口は食うだろーが!」
「ですねぇ」
聞き慣れない騒ぎに思わず呟いたけど、それすら掻き消されたよ。
カウンターには銜え煙草ならぬ銜えココアシガレットの蓮さんがしかめ面だ。
カウンターに座ってご飯食べてるらしい四人の背中。
雰囲気からすでに美形予想できるとか。
その少人数でそこまで騒げるのも凄いところです。
視線をちょっと上に向ければ、ばっちり蓮さんと目が合った。
「…おせェんだよ」
「そんなこと言われましても……」
どうしたんですか、って言おうと息を吸った瞬間ふわりと背中に何かが覆いかぶさるような温かさと甘い匂い。
それに、前に伸びて来た手に遮られて。
蓮さんのぴりっとしたお怒りな表情を視界に捉えつつ、振り向こうと首を捻った。
ら。
「く…っ、むーつーきーくぅん!会いたかったよぉぉぉ!」
「ぅおっ」
右に向こうとしたら左から、妖しい声がしました。
耳元で大声出すな。つうか、
「───ここで通り名言ったら切腹もんだぜ、慧」
「ゴメンナサイ」
抱き着いている相手と俺にだけ聞こえる声量で言えば、すぐに片言ながら謝罪が返ってきた。
通り名を知っている、俺が【黒猫】だと知っている知り合いでこの言葉遣いに加えこの行動をするのは。
『tutelary』の傘下にいる数多のチームの中でトップに立つ『RAIN(レイン)』の総長、八月一日 慧(ホズミ ケイ)。18歳。
おちゃらけた言葉遣いと自由奔放な行動、年齢より子供っぽく見える。
なのに総長。しかし男前。
いつも棒付きの飴を舐めてるその姿がトレードマークみたいな。
だがしかし男前。
最後に会ったのは、やはりというか二年前だったな。
巻き付く腕を解いて振り返れば、最後に会った時と変わらない桃色の髪に肩より下まで伸びた髪を左耳よりちょい上に結ったヘアスタイルも変わらず健在。
今はサイドに濃いピンクのグラデーションが追加されてた。
なんで桃色なのかは不明。
絶対痛んでると思うのに、キューティクル健在なその髪が不思議でたまらないよ。
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