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01
 


 夏の日の夜に、死にました。






 ───いや、違う。間違えた。
 死んだのは俺じゃない。死んだようなもんだけれど、生きてはいる。呼吸している。

 死んだのは身内で、父親だ。長男だ。
 家族と認めたくないけれど血が繋がっているのが現実。その人間が、突然なのかどうか分からないけれど死んだ。



 ───その時は、いつものように唯一落ち着ける入浴中だった。
 身体を泡まみれにして、その時までの苛立ちも疲れも洗い流すようにお湯をぶっかける。

 ふと浴室の外で大きな衝撃音のような、どたん、という音が聞こえた。
 けれど気にはならない。
 いつも突然大きな音がするから慣れてしまったのだ。そんな音がした事すらすぐに忘れる。


 だから何もなかったようにシャワーで泡を流そうとノズルを持った瞬間、洗面所と浴室を隔てる扉が突然開いた。



「───…っ!?」



 普段は入浴中に開くことのない扉が開いたらそりゃあビビる。

 心臓が跳ね上がって、文字通り驚いて泡を流そうとしてノズルを持ったまま固まった俺の視線の先に立っていた人物に顔を歪めた。
 自分の世界で最も嫌う人物であり、血縁者でもある長男の姿が視界に入る。


 唯一心地好く入浴している時に見たくない姿を見てしまい、更に眉間にシワを寄せ視線が鋭くなって心が冷めていく。
 けれどすぐに目線はそいつの手元へ移る。光りの反射できらりと光る、それを見た。



「……は、」



 なんで包丁なんか持ってんですか。
 なんでその刃に、血が付いているんですか。ここは台所じゃないんだけど。


 そしてそんなことを事を考えている俺は、なんで冷静なんだ。





 突然の事態に思考が止まらない。
 ぐるぐるぐるぐる、回る。
 フル回転しちゃってんじゃないの、と思うくらいに回る。

 これは冷静ではないのかもしれない。
 いや冷静でいる方がおかしいのか?


 とにかく。

 包丁を持って現れたそいつ。
 スローモーションなんかじゃない。
 若干身動きをしたそいつが突っ込んで来そうな気がして、持っていたシャワーノズルを反射的にそいつに向けた。



「…ぅぶ……っ」



 予想外だったのか、暖かいお湯が掛かって驚いたように動きが止まる。
 俺は何故か状況説明を頭の中でしていた。やはりちゃんと混乱しているらしい。


 全裸の俺と、ずぶ濡れで所々体に血がついたそいつ。
 異様だと思った。


 シャワーの反撃なんか長くは持たないと分かっていたから、そいつの持っている包丁を、触りたくもないそいつの手ごと掴む。
 ぴりっとした痛みが走った気がしたけど、その時はどうでも良かった。

 そいつへの日頃の苛立ちなのか、いつか手を出してしまいそうだとは思っていたが、まさか原因である人間から仕掛けられるとは思わなかった。


 頭の中は徐々に冷静になってきている。
 その包丁と身体に付着する血液が誰のものなのかも、予想していた時だった。



「───あ…ッ!?」



分厚いハムだかソーセージだかに刃を入れたような感覚が、した。



 


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あきゅろす。
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