07
頑張ってみる、と蒼司は頷きながら言った。
その間には葛藤というか悩んでいるのか沈黙があったものの、意思は固まったらしい。良かった良かった。
幾分かまとまってすっきりしたのか、蒼司がホットケーキを食べる事を再開し始めた時、テーブルの隅に置いていた携帯が着信を知らせてきた。
「んあ、電話だ」
蜜掛けケーキを運んでいた手が一瞬止まり、口に入れてから携帯を取る。
隣で蒼司が「馨さん?」と聞いてきたが残念ながら違います。
「もひもひ。…いやホットケーキ食ってる。 開いてますとも」
呆れ気味な声に笑いながら言って、一分足らずで電話は終了。蒼司が疑問符を浮かべているのを見ながら、玄関が開閉する音を聞いた。
「あの二人?」
「二人っちゃ二人だなあ」
なんなのその思わせ振り、とつつかれながら反応を楽しみにしてる俺。小さいながら日頃の仕返しである。
「連れてきた」
「おい、いい加減離せ…っ」
そしてリビングに入ってきたのは───しかめ面の瀬戸と首根っこを捕まれ不貞腐れた馨先輩である。
聞き覚えのあり過ぎる声に振り返った蒼司は、フォークを皿に落としてぽかん、とアホ面をかました。
まあ、あれです。
馨先輩の居そうな所を聞いておいて、瀬戸にお願いをしました。連れてきて(はーと)でメールしました。
いやー、ハート絵文字の威力凄いねえ。
「早かったなー」
「駅前に居た」
「あぁ、そうなんだ」
先輩をぞんざいに扱った果てに蒼司の上に投げ寄越しながら、瀬戸は俺の横に無言で座った。
とりあえず、あまり蜂蜜がついていないホットケーキを一切れ差し出したら普通に食べた。
「ちょ、諒…!?」
焦る蒼司の声に顔を向けると、抱きついて離れない馨先輩を必死に引き剥がそうとしている元カレがいた。
なんだ、そんなに会いたかったのかこの人は。
「よく連れてこられたね…」
「あ? まあ引っ張ってきたからな」
蒼司が驚いた顔で言うと、瀬戸はホットケーキを催促しながらあっけらかんと返した。
俺の周りにいる連中はもれなく馨先輩に素っ気ないというか、扱いが酷い。もちろん俺も含めて。
腹が減っているらしい瀬戸にホットケーキの乗った皿を渡し、追加で焼くかとキッチンに器具を取りに行くことにした。
なんだかんだやっている最中でも馨先輩は蒼司にべったりである。見知らぬ人を前にした子供か。
「先輩はホットケーキ食べる?」
「……」
「返事しろや」
果ては極度の人見知りな子供か。
しかしキッチンにいる俺からは無視をされたように思えたが、どうやら頷きはしたらしい。食うんかい。声出せや。
蒼司が「食べるって」と代わりに返事をしてくれたが、テーブルに戻ってきた時に馨先輩の足を蹴りつけておいた。
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