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04
 



 その日の夜、しばらくアクセスしていなかったSNSを気紛れに開いた時、その理由を知ることとなった。
 彼の友人が数人、トモダチリストというものに登録してあったのを思い出したのは、その一人が日記を更新していたからだ。
 日付は三日前。
 不安な気持ちが渦巻きながらも、止められずにその日記をクリックした。




 “───最近友達から聞いたんだけど、この間彼女と別れるために電話したんだって。好きな子できたからって。
 元カノはOKしたらしいんだけど、最後の方で「好きでいるから!」って言われたらしい。
 ストーカー予備軍だよ、どーする?(笑)ちょーこわいって笑いながら言ってた。笑いながらって(笑)
 そういや昨日の───"



 たかだか十行にも満たない文だった。
 けれどその短い文章は、当時の私にとって酷く衝撃を与えるに充分な威力を持っていた。

 それを目にしてからというもの、学校へ行くたび、町中で人と目が合うたび、恐怖心が渦巻くようになる。
 町中で擦れ違う他人、名前も知らないのに、目が合う生徒や見ている生徒や教師までもが、あの電話のことやあの誤解を招くような文章を知っているような気がした。


 今まで相手がそらすまで見ることが出来たその人の目を、見る事が出来なくなった。
 会話するたびに、目が合うたびに、心の中で彼の友人が書いた日記と同じことを思っているのではないか、という被害妄想に陥る。



 まだ別れて間もない頃に一度、電話で彼に聞いたことがあった。
 なぜ話したのかと。
 彼は一言「怖かったから」と悪びれもなく言った。

 やってもいないのに、彼の周囲は私を影でストーカー呼ばわりしていることは知っていた。
 そしてその電話の時に彼は、「学校やめろよ」と言った。
 それはただ自分の不快を取り除く為だけの意味を込めた声だった。
 表には出していなかったけれど、私は酷く負けず嫌いだったため、友人の存在も大きかったが、殆ど意地で学校へ通い、何かひとつでも彼の上を行ってやるというその心持ちで、成績を上げた。複雑な気持ちではあったけれど、それでよかった。
 けれど、その時既に彼への気持ちは好意ではなくただひとつの恐怖だった。






 高校生という多感な時期と、時代に乗って広がっていくネット、様々な人間が見る事が出来るSNSというのは、嫌になるくらい情報を流していく。

 好奇心からの行動によって暴かれる自分の心境は、無責任な言葉で彼の周囲や色々な場所に晒される。
 悪気があるのか無いのかは分からないが、きっと面白いからという単純なネタ扱いだったように思う。
 ただ好きだっただけで、やってもいないストーカーとして称され晒され、ただ己の不快を取り除く為だけに発せられるそれら。

 ひとつ見つけてしまえば、自分の知らない所で別の何かが広まっているのではないか、という精神的な虐めを受けているような、長い時間。
 人の目を見られなくなり、心の中で、彼の周囲に留まらず、すれ違う誰かや校内のほとんどの人間がその事を知っているのではないか、心の中で嘲笑っているのではないか、あれがストーカーかと思われているのではと。そんな被害妄想に陥る。

 今でこそ普段の生活に支障はないものの、時折あの頃と同じような感覚が押し寄せてきて、人と接することの恐怖から家を出ることすら出来なくなる時がある。
 当時、子供と大人の間だったからこそ、あの頃の彼らの行為は残酷なものだった。



 けれど考えてみれば、お互いに自業自得だったと言えるその原因。
 つくづく未熟だったと思い知らされる。
 そうやって成長していくのかとも。
 吐き出した場所が悪かったのだ。好奇心で見てしまったのが悪かったのだ。

 思えばやっぱり、自分のせいなのだと。
 そう思うことの方が強かった。
 せめて、互いの心中でだけであったならと。













「……7年は長いと思うかい?」



 随分と見た目と年齢と合わない言い方だな、と思った。



「…どうかしらね」



 その答えを、私は持っていないのだ。
 この記憶がぼやけてきた頃に、長かったと感じるのだろうか。今はまだ、その答えはない。
 7年という月日の間に、誰かと愛し合い結婚していたなら、短いと思うのだろうか。


 彼は、7年の期間についてそれ以上聞いては来なかった。


 


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