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短編集(~2019)
15
 


 ぽんぽん、と頭を優しく撫でられて。


「佳祐、」
「……っ」


 呼ばれて、びくっとして。
 顔が上にあがって、頬に温かい手が触れて。
 どきどき、する。


「悠って、呼べよ」
「……悠…サン」
「……、サンは今だけな」
「……」


 困った。
 呼び捨て、なんて出来ない。
 けどその言葉があの選択肢の返事で。


「死んでも、離してやんねぇから」


 そういって綺麗に笑った顔に目を反らせないまま、近づく顔に、傾く体に、抗えなくて。

 啄むように、壊れ物を扱うような、優しくて温かくて泣きそうで。



 そのままずっと、悠さんは覆いかぶさったまま30分以上キスされて。

 頭を撫でられて優しい目をして、優しい声で名前を呼んでくれて何回も何回もキスをして。



 抱き抱えられてベッドに寝かされ、抱きまくらにされて、温もりが嬉しくて、でもまだ怖くて、動けなくて。


 翌日、色んな話を聞いて。
 仕事とか家のこととか俺のこととか。
 そりゃあもうずっと、ずっと引っ付いたままで。














 それから、二年。


「……だいっきらい」
「知ってる」


 その余裕の笑顔も大嫌い。
 頭を撫でる温かい手も、俺に向ける笑顔も、俺を包む体も、俺しか見ないその目も。

 向き合う形で座っているこの近距離が、反らせない目が、腰に回る手と頭を撫でる手が、優し過ぎる視線が、柔らかい笑顔が、狂いそうなほど愛おしいと思っている俺自身も、大嫌いだ。


「相変わらず、嘘しか言えないのな」
「うるさいな、嘘なんて言ってない」
「愛してる」
「……っ」


 くすりと笑う目の前の男。
 どうしようもなく、いつまでも慣れない言葉に戸惑うのを面白がってるようにしか見えない。


 でも、愛してるんだ。


END
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