短編集(~2019)
08
視界に入った建物は、ビルみたいな高層マンションで。
月々いくらかかるんだろうとか呑気な事を思いながら、俺は三門さんの動きに合わせて揺れながら行く先を見ていた。
……なんて呼ぶべきなのか分からないから、とりあえず『三門さん』って頭では呼ぶことにした。
疲れないんだろうか。
高校生ひとり、しかも男の体重で、メシをまともに食ってないとしても50はある。
なのに、目の前のこの男は、なんでもないような顔で歩いている。
広いエントランスに、革靴の音が響く。
外の音が遮断されているこの空間は、耳鳴りがする程に静かで。
俺の鼓動が三門さんに聞こえているんじゃないかって思うくらいだ。
オートロックの自動扉を過ぎ、エレベーターの目の前で止まる。
沈黙。
いや沈黙は嫌いじゃないけど、なんか、いまのこの状況だと、かなり気まずい。
エレベーターのドアが開き、乗り込む。
「……悪いが、片手を離すから首に掴まって」
「……っ」
雑音がない空間での三門さんの声が、直にきた。
色んな意味でキタ。
俺は戸惑いながらも腕を動かして、三門さんの首に掴まる。
今出来る限りの力を入れて抱き着く。
背中にあった手がどいて、何かを探すように動いて。
何かをスライドさせる音を聞いた。
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