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短編集(~2019)
07
 


『───愛してる。佳祐、オレはお前だけが家族なんだ。…でも、』


 でも、家族としてじゃなくて、ひとりの人間として佳祐を愛してるんだよ。







 吐き気がした。
 頭が痛い。ぐるぐるぐらぐら。

 俺を造った両親は、俺を義務的に育てていただけで、愛情は専ら兄貴の方に向いていた。

 一人っ子だと寂しいから、なんて理由だったのかもしれないけど産まれて育てられて17年過ぎた今となってはそんなことどうでも良かった。
 確かに愛してほしいと思った時はあった。
 幼い頃から思っていた。
 けど、中学生になって、やめた。
 あの二人はもう、いやはじめから、俺を見ないから。
 佳祐っていう存在に、目を向けてなかったから。
 だから、俺は嘘をつき始めた。
 笑って笑って、嘘で塗り固める。
 俺の存在自体が嘘のように思えたから。
 俺に向けられた愛情は、きっと兄貴の独占欲のようなもんだったと思える。
 思うようにいかなくなったから棄てた、なんて、どこの幼児だ。



 きゅっ、と音がして車が停まる。
 意識が若干飛んでたらしく、視界が明るくなる。
 男がちらりと俺を見た。
 目が合う。


「着いたぞ、ちょっと待ってろ」
「……」


 着いた、って?
 家だろうか。
 てか家以外にあるのか、なんて俺さっきから自問自答してる。
 男の姿が見えなくなって、本当に少しの時間だったと思う。
 後部座席のドアが開き、俺はされるがままお姫様抱っこで抱え上げられる。
 いまだに痛む体に、少し顔を歪める。


「痛いのか、少し堪えろよ。体も冷えてる」


 そりゃあ、あんな場所にずっと寝転がってたら冷えるよな。
 だって今は、11月なんだから。
 何時間あそこにいたのかは分からない。
 けど、俺はあそこにいて、一夜を過ごした気がする。
 夜を見て、朝を見たんだ。


 

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