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短編集(~2019)
03
 


 灰色の空を見上げる。
 灰色の雲と灰色の空の境目がわかる。
 立体的になってなきゃ、もう全てが同化して全てが壁のようになってる。

 ビルとビルの隙間から見える、灰色の世界に俺は何も感じないし何も抱く事もない。

 例え、殴られた頬と蹴られた腹の痛みが、顔を歪ませるような激痛になったとしても。



 思えば、なぜ俺がこんな路地裏に横たわって黄昏れてんのかすら、どうでもいいというような感情で。

 汚れた制服。
 汚れのない白かったシャツの衿元は、所々赤く染みを作っているだろう。


 冷たいアスファルトが布団だなんて、俺の体は寝覚めにはがちがちだ。
 頭ががんがんと痛んで、両手両足が小刻みにしか動かせない。

 立てないでこのまま一晩中寝てるなんて、浮浪者か俺は。
 ぶっちゃけ浮浪者より酷い。
 あの人達は、暖を取るために段ボールを引きずって毛布を拾って来る。
 けれど俺はそれすらしない。

 というか出来ない。


『───全てを失う時って、どんな感じ?』


 痛む頭の隅っこで繰り返されるアイツの言葉と表情が、こびりついて離れない。


 制服だけを纏った俺は、携帯も財布も鍵も、帰る家も自分の部屋も気に入っていた布団も、着ている制服とこの身ひとつ以外全て失った。
 なにもない。
 俺にとってそれは、死んだのと同じだ。


「───なにしてる」


 じわりと流れ込む低音の美声が、脳裏に直接響くような印象を受けた。
 いつから立っていたのか、横たわる俺の左側に、そいつはいた。



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出会い。


 

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