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隣から良い匂いが漂ってくる。甘い、清潔な匂い。

「一人で旅行ですか?」
「はい。人に気を使うのが疲れるので」
「あーわかります。時間合わせたりするのとか疲れますよね」

林原さんは落ち着いた声音で話す。大学生くらいだろうか。若い横顔をしている。

「私も身内以外の人と遠出するのが苦手なんです。彼氏いても一緒には出かけないから長く続かないんですよね」
「彼氏も?じゃあ、仲良い友達とかもですか?」
「そうですねー車で日帰り出来る距離くらいですかね」
「私は一泊くらいなら我慢できますね」
「うわっ!負けた!」
「やったぁ!」

底辺争いをしながら景色はどんどん変わっていく。都会を過ぎて緑が多くなっていた。
改めて逆方向だったんだなと自覚する。

「どこに行くか決めてるんですか?」
「うーん。一応、有名所には行きたいなっては思ってます」
「なるほど。確かにここら辺は観光地ばっかりですからね。じゃ、観光は明日からですか?」
「決めてはいないんです。三日で回れたらいいなって思ってるだけなんで」
「じゃあ、私のオススメコースを紹介させてください」
「お言葉に甘えますね。是非よろしくお願いします」

和やかな空気が車内に満ちていた。
しばらく走って、落ち着いた雰囲気の旅館に着いた。林原さんはキャリーバッグを出してくれるとフロントまで引いてくれる。優しいなぁ。

「ようこそいらっしゃいませ。成宮様ですね?お荷物お預かりします。あら、キリちゃん!久しぶりねぇ」

女将さんらしき人が出迎えると林原さんに声をかけた。林原さんはキャリーバッグを従業員に渡して会釈をする。

「お久しぶりです。相変わらずお元気そうですね」
「あらあら。立派に挨拶できるようになっちゃって!竜三さんはお元気?」
「あの人も相変わらずですよ。ほら、お待たせしてますよ」
「失礼しました!女将の柊と申します。ご用があれば遠慮なくお申しつけください」
「あ、ありがとうございます」

女将さんはとても綺麗な人で、気さくそうな人だった。この街の人達は美形が多いらしい。

「お客様がキリちゃんとご友人だとわかっていたらもう少しサービス出来たんですが」
「あ、いや、お友達ではなくて迷子になってたのを助けてもらったんです」
「そうだったんですか…お手数かけさせてしまって申し訳ありませんでした」
「全然!私が悪いので」
「いいえ。改善させていただきます。私共に非がありますので」








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あきゅろす。
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