[携帯モード] [URL送信]
1

進撃の巨人



彼女は空を飛ぶ。
勿論、それは比喩表現ではあるけれど嘘ではない。
立体機動装置は彼女の翼なんだろう。

「アッカーマン、余所見してはいけないよ。油断大敵だ」
「はい!」

分隊長は優しく諭す。
短く緩いくせ毛の彼女はその雰囲気とはそぐわず討伐数はあのチビ…リヴァイ兵士長の次に多いと言われている。
その実力は今回の調査で明かだ。

「アッカーマン。あそこの奇行種、君に任せても良いかな?ヒータ班は彼女の補佐を頼むよ。」
「了解しました!」
「はっ!!アッカーマン!気を抜かずに頼むぞ!!」
「勿論です!」

分隊長が率いる三つの班は皆優秀らしく今のところ犠牲者は10人もいかない。
私もいまのところ危険に晒されていない。

「死なないように頼んだよ」
『ハッ!!』

飛び回って奇行種に近付く。
私達には一切目を向けず違う班に向かっていたソレを私を含む7人で囲む。
皆焦りを見せずに冷静に対処している。

「アッカーマン!我々がこいつの気を逸らす!その間に削げ!」
「了解です!」

班長の指示通りに動く兵士達。
奇行種は周りをひゅんひゅん飛び回る彼等に狙い通り食いついた。
自分でも分かる。高揚が息を荒げる。
今しかない。冷静に。

「アッカーマン!今だ!!」
「いきますっ!!」

刃を寝かしてうなじを削ぐ。
上手くいった。

「アッカーマン!後ろだ!!」

一息ついた隙に後ろの3m級の巨人に近づかれていた。
ミスをした。いや、油断をしてしまった。
迫り来る巨人の手。何故か体が動かない。

「だから、油断大敵と言ったんだよ」

優しい声が空から聞こえた。
それと同時に巨人の頭が転がり落ちた。巨人の血が頭から降りかかる。

「大丈夫?ケガは?」
「あ、ありません…」
「良かった。立てるなら撤退しよう」
「はっ…はい」

ななし分隊長は馬を牽いて私を先に乗せた。

「アッカーマン。良くやったね。一人で乗れるかな?」
「…大丈夫です」
「そう。じゃあ、油断せずに戻ろう。全員撤退!!!」

最後は轟くような声だった。
巨人の血が蒸発していく。
「アッカーマン。気分は?」
「問題ありません」
「そう。隣、良いかな?」

頷くと分隊長は座った。
少しくたびれた横顔にドキリとする。
調査兵はこんなにも身近に死期を纏っているのか。

「今回はよくやってくれたね。死ぬより難しい事をしてくれて助かったよ」
「いえ、先輩方のおかげです…助けが無かったら死んでいました」

分隊長はふむ、と軽く頷くと懐から血に塗れた団章を取り出した。

「これは私が助けることができなかった仲間のモノだ。死体は持ち運べないからね」
「はい」
「君が助けられたのは彼等の犠牲よりも尊い強さだからだ。わかるね?」
「はい」

分隊長はニコリと笑うと団章を懐に戻した。
それから私の顔を覗き込んで悪戯っ子の様に歯を見せて笑う。

「何て言うのは建前。本当は君が人類にとって希望の星だからとかじゃないんだ。君が…あまりにも綺麗に飛ぶから、ついね」
「…ありがとうございます」

目を反らしてお礼を言うとハハハと笑った分隊長。
豪快に笑う彼女に笑いが零れた。

「君、笑ったほうが良いね。可愛い」
「な…何を言ってるのかわかりません」
「ハハハ!照れてるねぇ」
「分隊長!団長がお呼びです!」
「今行く」呼ばれた分隊長は立ち上がって私を見た。

「君も来てくれる?成果報告をしないといけない」
「わかりました」

隣を歩いているとハンジ分隊長が走りながら分隊長に突撃してきた。分隊長は笑いながら受け止める。

「ななし!今日は二体生け捕り出来たんだ!今度はどんな実験しようかな?ねぇ、ななしとしては「ハンジ、今エルヴィンに呼ばれているんだ。その話は本部に帰ってから聞いてあげるよ」オッケー!リヴァイもいたからよろしく言っといてー」
「ハンジ、また後でね」
「はいはーい」

二人の分隊長は仲よさ気に別れた。
羨ましいと思ったのは気のせいじゃない。
しばらくもしないうちに人混みに紛れた団長と兵長を見つけた。

「ああ、来たね。早速、戦果報告を頼むよ」
「了解。こっちの班の犠牲は12人に留めることが出来た。100以上を討伐出来ている。でも、これは作戦が良かったわけじゃなくてアッカーマンの戦力のおかげだと考えてる」

団長は軽く頷いて私を見た。それから微笑む。けれど、少しも目は笑っていない。

「君の意見は?」
「…自分はそうは思いません。分隊長や先輩達の実力だと思われます」
「なるほど。どちらにしろこの作戦は変ええなければいけないようだ。もう一つの作戦があるのだけど」
「ああ、ちょっと待って。アッカーマン。君は戻ってくれて構わない。今日はお疲れ様」

ニコリと笑った彼女に敬礼をして隊に戻る。
一瞬、あのチビ…兵士長と目が合ったが無視してやった。




.

[*前へ][次へ#]

23/28ページ


あきゅろす。
無料HPエムペ!