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進撃の巨人




夢を観た。
暗い世界に光を差し込ませた義父が手を伸ばしてくれた時の記憶。
その指を握る私の手は酷く小さかった。


「何を呆けているんだ。馬鹿娘。風邪をひいても知らんぞ」
「……ありがと、お父さん」

自分に掛かっていた薄布団に包まりながら職務をしている義父に礼を言う。辛辣な言葉を吐くがとても優しく甘い。
フンッと鼻を鳴らして書類に目を向ける義父に思わず笑みを零して目を閉じる。
何も混じっていないコーヒーの匂いが鼻を突いた。義父と義父の上司の服に染み付いた匂いだ。私はこの匂いが好きで、いつか飲めるようになりたい。

「兵長殿は愛娘にゲロ甘だね。私が同じ事したら「削いでやる」ですよねー」
「……ハンジさん」
「オハヨー。相変わらず低血圧だね」
「………すみません」

私は中々酷い低血圧症の持ち主らしく寝起きがとても悪い。特に返事は時間がかかるし急に起き上がると倒れるくらいだ。
完全に兵士には向いていない。
この眼鏡をかけた中性的な人はハンジ・ゾエさん。兵士であり研究者であり、そして変人だ。
普段は気さくな人だが一度<ヒトタビ>巨人の話になるとその日は寝れない覚悟をしなければならない。その話は追い追いわかるだろう。

「ななし。起きれるなら部屋に戻れ。仕事が捗<ハカド>らねぇ」
「…お父さん…私、訓練所に行きたいんだけど」

ボソボソと今まで考えていた事を告白した。
それと同時に見開かれた四つの目。

「…馬鹿か?低血圧の奴が兵士に向かんのはお前が良く知ってるだろうが」
「それに、ななしは頭が良いんだから兵士より私の補佐とかエルヴィンの補佐のほうが向いてるよ!ななしがマッチョになるなんて私は認めない!」

一気にまくし立てられた言葉を理解するのに時間がかかった。低血圧っていうのは本当に厄介だ。

「……それは、そうだけど…」

眉を寄せながらゆっくり上半身を起こす。こんなことなら寝なきゃ良かったな。義父の近くは何故か眠たくなる。

「…でも、周りが死んで行くのを見ながら守られる人間に成りたくない…外を知らないままの研究者に成りたくない…頭が良くても死を理解しない人は馬鹿だ…」

義父は難しい表情で腕を組み、小さく舌打ちをした。
彼が決断する時の小さな癖だ。

「…ななしよ。お前は死を十分に理解していると思うが、お前がそう望むなら俺は全力で応援しよう」
「ありがと…お父さん」

にこりとぎこちなく笑うとそのままソファに倒れ込む。
そうだ、どうせなら髪を切ろう。義父並とはいかなくてもナナバさんくらいにはしたい。

「エルヴィンが何て言うかなぁ」
「…父親の俺が言うんだから関係ないだろうが、クソメガネ」
「えー?エルヴィン、リヴァイよりななしに甘いし、過保護じゃん」
「……確かに、何故かななしに固執してるな…人の娘に色目使いやがって」
「リヴァイキモい」

そんな会話を繰り広げる大人達を他所に私は微睡<マドロ>みと戦う。

どうせやるならトップを目指したい。まぁ、どうせ無理だろうけど、目標は高い方がいい。
人類最強の男の娘なんだから。



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