SPICE
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「へえ、もうそんなに治ったんだ。やっぱり君は面白い」
医者とライダースーツが部屋を出て行ったのを確認してからニコニコしながら臨也は利央を見つめた。
「貴方がここまで運んでくれたんです、よね?ありがとうございます」
「いやいや、そんな御礼を言われる事じゃないさ。人として当然の事をしたまでだよ、藤枝利央ちゃん」
少女−藤枝利央は目を見開いた。無理もないだろう、知らない男が名乗ってもない自分の名前を言ったのだから。
「なんで、あたしの名前を……?」
警戒心丸出しの利央に臨也は愉しそうに続ける。
「忍びないとは思ったけど血まみれの女の子を何処に運べばいいのか考える時にある程度君の事調べさせてもらったよ」
少し困ったように話す臨也の手には利央の鞄が握られている。カードなどからその情報を得たのだろう。
「今日から高校生なんだよね?災難だね、入学早々大怪我だなんて」
「あ……っ!入学式……っ!!」
臨也の言葉に慌てて時計を見れば時刻は9時。
−確か、入学式は10時からだったはず…!!
あれ程楽しみにしていた高校生活、初日から遅れる訳にはいかない。急いで立ち上がるとチクリと足に痛みが走るのを感じた。
「痛っ……」
そこで利央は昨日自分が車に轢かれたばかりだったはずだということを思い出す。そして思う。どうして自分は立ち上がれるのだろうか、と。
自分は普通じゃない
そんな考えが一瞬利央の頭をよぎる。
「そんな、ことない…」
弱々しく呟くと利央はフラフラと歩き出した。
−こんなの嘘だよ。早く学校に行って、普通になるんだもん…
「えっ!?ちょっと君?!」
覚束ない足取りで歩く利央に廊下にいた医者が声をかけるが利央の意識には届かないようだった。
「…臨也、どうなってんのかな?僕とセルティに単純明快に説明してくれないかな?」
利央が出て行った後、医者は呟いた。ライダースーツがそれに同意するように臨也の方を向く。そこで彼等が見たのは…
「面白い、面白いなあ!!これは久しぶりにいい退屈凌ぎが出来たよ」
珍しく本気で楽しそうにしている男の姿だった。
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