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V





「ふうー・・疲れた」


会場を後にしたディーノは、久しぶりの誕生日パーティーに疲れた心を少しでも癒す為、バルコニーへ来ていた。

ここなら、まだ始まったばかりな為誰も来ない。









(恭弥・・今何してっかな)


月を見上げても陽を見上げても

星を見上げても雲を見上げても



四六時中、とらわれている。







【雲雀恭弥】に……――――











「はーぁ・・・」


しかし考えていたって仕方がない。

今は雲雀だけの自分ではないのだから。









ディーノが会場へ戻ると、


そこはおかしな状況になっていた。




ワルツの曲が流れているのに殆どの人間が踊らず、いくつかの輪をつくり話をしている。

踊るより話をするというは人は珍しくないのだが、それにしてもその類いが多すぎる。




と、ディーノはその上話ているのが全て女性であることに気がついた。

しかも彼女達は、皆一様に会場の奥を見てはヒソヒソと小声で話していた。



「どうかなさったのですか?」


取り敢えずすぐ近くにいた輪に話しかけてみる。


「ディ、ディーノ様!

あのご令嬢はディーノ様のお知り合いですの?」


「ご令嬢?」












彼女達の話に因ると、ディーノがバルコニーへ引っ込んだその数分後に、ロマーリオに連れられ1人の女性が会場へ入ってきたらしい。


その女性の登場に因り会場中の殆どの独身男性は集中攻撃体勢に移行。

今も女性達の冷たい視線の向こう、会場の奥でそのご令嬢を口説いているらしい。



「ディーノ様のお知り合いですの?」





もしや、ビアンキだろうか?

しかし彼女とはあまり話していないし、

第一彼女は既に社交界デビューをしているはず。




「…ロマーリオに尋ねてみますね」

仕方なくディーノは、会場の外で指揮を執っているであろう次官を探しに行くことにした。
















「ロマーリオ!」


彼は屋敷の外、玄関の脇で部下に指示をしていた。





「・・は、今・・・こ・・・・」

微かに2人の話し声が聞こえる。


何か大事があったのだろうか?





「ロマー、」

「雲雀は今どこだ?」



(・・・え?)

ディーノは足を止めた。


妙に鮮明に、2人の話が耳に入ってくる。



「それが、ホールに入った途端男共に口説かれているみたいで・・・」

「これだからイタリア男ってヤツは・・・

 ボスは?今どこにいる??」



「それが・・・」





「ここにいる。」


「!」

「ッボ、ボス?!」

居ても立ってもいられず、ディーノは詳しく話を聞くべく2人の前に出た。



「ロマーリオ。

 その話は本当なのか?」


すると、ロマーリオはサラリと

「あぁ。」

と、あくびれもせず言うた。


しかしその言葉にディーノの胸は乱れる。




「・・・うそだ、ろ・・?」


「嘘じゃねぇよ

 昨日の夜、雲雀から電話があった。」















昨晩。


ディーノが丁度席を外していた時、

一本の電話がかかってきた。




「もしもし」


その相手は、

「…ディーノじゃないね」







雲雀恭弥。



ロマーリオは驚いた。

いつもは直接ディーノの携帯に電話する雲雀からというのもあるが、彼が滅多な事では決して電話してこないからだ。



「今ボスは出掛けていてな。」


慎重に言葉を選び返事をする。

雲雀恭弥という男は、誰より短気だ。





「そう・・好都合だよ。」

しかし雲雀はロマーリオの想像に反する…



――それはそれは、安心した様であった。





思わず


「何か大事な用なんじゃないのか?」

と少し早口に捲し立てる。



それが仇になってしまったが。


「…なに?
マフィアさんは大事な事じゃなきゃ電話さえしちゃ駄目なワケ?」

「あっいや、そういうワケじゃなくて…」


まずい。

ここで怒らせたりしたら、誕生会にとてつもなく痛いプレゼントを送られてしまいそうだ。





だがロマーリオも失念していた。


もう、10年経っているということに・・・









「まったく・・・

 跳ね馬のFは皆ヘタレなの?」

クスクスと楽しそうな笑い声がロマーリオの耳に入り込む。

「ひ、ばり・・・?」



「ハハハッ

・・・それはさておき。
明日アノ馬鹿の誕生会があるんだよねぇ?」


「あ、あぁ・・・」
「僕も行ってあげるよ、明日。」





「・・・なに?」


しかしロマーリオの記憶が正しければ、雲雀は態々彼だけを招待する為に来日したディーノの誘いをにべもなく断ったハズだ。



「ただし、ディーノには知らせないでね」


「?

 何故だ?」


益々ワケが解らない。





すると、雲雀はとんでもないことを平気で口にした。


「僕、女装して行くから。」















「なっなっ」

「何でかは俺も知らねぇよ」


ロマーリオは短く嘆息した。



「ただ、今日の夕方近くの町まで草壁に送らせるから迎えに来いと言われてな。

ボスには秘密にしてたこと、悪いと思っているが・・・なんせ雲雀たってのお願いだったからな。」



しかしそんなロマーリオの謝罪はディーノの耳には入っておらず。

何故雲雀がこのような行動をとったのかという、本人しかしからない答えを求め頭を抱えていた。

「ボス、混乱するのも解るが今は取り敢えず雲雀を助けに行くべきなんじゃないか?」

「ん?あっそうだな!」










ディーノは、駆け出した。


ロマーリオは、駐車場へと消えた。




しかし、彼はもう転ばない。













彼は、『へなちょこ』でも『跳ね馬』でもないから…――――








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